蛇足(35歳と40歳の朝)
「入れたまま寝落ちなんて、良い大人が情けない……」と落ち込むエレンにリヴァイは少し愉快そうに(その実不安なところが隠しきれていないのに)「嫌なのか?」と尋ねた。
「いや、じゃねぇけど、変態くせぇじゃん」
「良いじぇねぇか。本当のことだろ」
エレンの答えに、途端に上機嫌に片眉を上げるリヴァイ。その変わり身の早さがちょっぴり憎たらしくて、エレンは盛大に嘆いてみせた。
「リヴァイのせいで、立派なエロ親父になっちまった!」
するとどうだろう。今度は神経質そうに片眉を動かして、エレンを低い声で脅しつける。
「部下にセクハラでもしてみろ。殺すからな……」
全く嫉妬深いものである! 愉快だ。エレンは声をあげて笑った。
「上司が部下に、なんてないだろ! リヴァイAVの見過ぎ!」
エレンにとっては軽口のつもりだった。しかしリヴァイはといえば、痛いところでも突かれたように、顔を顰める。
「……AVはとっくの昔に懲りたがな」
虚を突かれたのは今度はエレンの方だった。エレン一筋三十五年のリヴァイが……。
「えっ、お前でもAVなんて見るんだ」
純粋な驚きをそのまま言葉にすると、リヴァイは心外だとでも言うように鼻を鳴らした。「お前は俺をなんだと思っているんだ」
呆れと憤りとその他エレンには推し量れない感情を含んだ嘆きの声に、まさか馬鹿正直に「オカズはいつも俺なんだと思ってた」とは恥ずかしすぎて言えやしない。自意識が過剰になってしまったそもそもの原因はリヴァイだというのに、何だか理不尽だ。
取り繕うように「いやぁ、リヴァイも人の子なんだな!」と言っても、眇められた三白眼の威力は衰えない。
「……」
「……」
無言の圧力に耐えられなかったのは、当然エレンの方が先だった。
「知ってた! 知ってたよ! ずっと一緒だったからな!」
2014/10/6