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うずまきナルトの❤猫なで声





 木の葉の里は本日青天であった。高くうららかな日差しは里の建物や道、行きかう人々に投げかけられ、彼らは日の長くなった季節を寿ぐようにゆっくりと歩く。混迷を極めた戦争を終え、意地の悪い者ならこの光景を「平和ボケしている」と嘆くかもしれない。忍の里、それも五大国の一つである火の国に座す木の葉隠れの里のこの穏やかな雰囲気は、里を治める火影の成果であると言えた。激動の時代を耐え忍んだからこそ、現火影はのどかな里を望んだのだろう。道行く人々の顔は一様に明るい。
 里の中心、丸い屋根の赤く塗られた火影塔で、くだんの六代目火影ことはたけカカシは生気の薄い顔をしていた。大ぶりの火影の笠が彼の半分隠された顔の、唯一晒された目元に影を落としている。火影室には大きな窓があり、そこから燦々と昼の陽光が室内に入り込んでいるが、火影の机は窓の前であり、そこに座する火影は陽光を背中に受け止めることしかできない。当然、逆光である。明るい室内に、笠の影と逆光。火影室の主人であるはずのカカシは、この場で異質なほど暗い影を背負っていた。なら室内であるのだしまずは笠を取ればよかろう。彼をよく知らぬ者ならマスクすら取ってしまえと言うかもしれない。部屋のレイアウトを変えるのは難しいことだが、それだけでいくらか男の影もマシになるだろう。だがいちばん肝心な問題が解決できていない。それは笠だとかマスクだとか室内のレイアウトだとか、そんな単純なものではない。いや見方を変えれば単純なのかもしれかった。
「はぁ~、ナルトはまだかなぁ……」
 要はこの男、恋人であり部下であり元生徒である上忍を長期里外任務に就かせ、その寂しさから鬱陶しいほどの影を背負っているだけなのである。
「今日の昼過ぎには帰還予定なんですから、もうあとすぐでしょう」
 火影の直近補佐は淡々と返すと、書類の束を目の前の机上に置いた。影がまたひとつ増えた。
 カカシはマスクの下で盛大に溜め息を漏らし、「まだかなぁ、まだかなぁ」と言いながらも束の書類を一枚取った。
「あ、シカマル、ここの予算は変更になったのにそのままだよ。修正しておいてね」
 そしてちゃんと仕事はするのである。



 それから少し日が傾いた頃だった。火影室に一際鮮やかな色彩が入り込み、それは賑やかな声を放った。
「せんせー、ただいまぁ」
「『火影様、ただいま帰還しました』でしょ」
 もうお前はいつまで経っても成長しないねぇ。おかえり。と告げた声は呆れた風を装っていても甘やかした声音を誤魔化せてはいない。
 ナルトが火影室に入ると同時に春風も連れてきたのか、室内の陰鬱な影は一掃されたように場が華やぐ。沈鬱な雰囲気を巻き散らかしていた張本人が、目の色を変えてはしゃいでいるのだから無理もない。
 花でも飛ばす勢いで喜色満面――目元のみを見るにしても――だったカカシが、浮かせた腰を中途半端に制止させ、目を見開いた。
「カカシ先生? どうかしたか?」
 目の前で硬直したカカシを見て、ナルトが首を傾げる。昔は奔放に跳ねていた髪は短く切りそろえられ、まろやかな輪郭を描く後頭部が揺れる。
「あ……、報告を聞こうか」
 カカシは静かに着席し、笠の陰からナルトを見上げた。両揃えの黒い瞳には、彼がいま何を考えているのかを覗かせない。
「? おう。結論から言ったら任務は成功で――」
 ナルトが火影室に連れ込んだのは春の風であった。それは温まった日なたの匂い、そして春を謳歌する花の匂い。わずかに、かすかに香った、冬を耐え抜いたのではない、人工の花。それを纏ってナルトは帰ってきたのだった。



「カカシ先生、さっきは様子がおかしかったけどどうしたんだ?」
 昼の長い日が暮れなずみ、しぶとく居座った青天にやっと夜の帳が落ちた頃。本日の火影業務を終えたカカシが帰宅すると、既に家に着いて長期任務の荷を解いたナルトが尋ねた。フローリングの床に直に座り、苦無を研いでいたナルトが手を止めて見上げている。怪訝な顔は、カカシを案じているからだろう。ナルトは素直だ。正直で、考えが分かりやすく、とてもかわいい。油断していると裏をかかれるずる賢さも、うっかりで発揮される意外性ナンバーワンのところも、カカシは好ましく思っていた。いまはどうだろう。あっけらかんとしたナルトの顔、その皮膚から、匂い立つには弱弱しすぎる香料。花の香り。
「……風呂、入ってきたら? 沸かしてあげるから」
 ナルトの疑問には答えず、そのまなざしを正面から受け止めることもできず、カカシは背を向けた。敵前逃亡もいいところだ。
「先生、怒ってる? いや、怖がってる?」
 敵とは誰のことだろう。的確に人の真理を打ち抜くお前か。まだ見ぬオレの恋敵か。
 カカシは抑えきれぬ溜め息を吐く。深い溜め息は、それでも胸にあるわだかまりまで吹き飛ばすことはできない。
「そうだな、怖いんだろう。お前が、……浮気したかもしれないことに」
 大名の娘の護衛任務から帰還したナルト。ナルトに染み付いた花の香り。忍が自ら匂いなどつけるものか。忍に匂いがつくなんて、いったいどうしたらそんなことができるんだ? 匂いを移されるほど、お前は女と密着したの。肌と肌を重ねたのか。
 思えばナルトとの付き合いは、実に十二年の長さになる。異性への興味なんて、ライバルへの対抗心としてほのかに抱いた初恋とも呼べぬものしか持たなかった幼いナルト。十二歳のナルトに手を出してから、物理的に距離が離れたこともあったし、時代が恋人間の甘ったれた雰囲気を許さぬときもあったけれど、それでもふたりのひそやかな関係が途切れたことはなかった。あのころのお前なんて、いつもいつもいつも見据えた先には里を抜けた友がいて、友のために血反吐を吐く思いで耐え忍ぶお前を見続けて、オレは女の子に嫉妬する暇なんてなかったよ。やっとお前の望み通り友が帰ってきて、オレはお前の夢に一歩先んじて火影になった。お前に生かされた命だから、もうずっと前から、お前がオレの希望だったから、お前の前を歩いてお前を導けることがまだあるのだと知ったときは嬉しかった。きっとお前は、一心にオレを追いかけてくれるだろう。火影はお前の夢だものね。だけど、それで安心しちゃいけなかったんだ。お前の夢を人質にして、恋人同士の関係の担保にしようだなんて。筋違いもいいところだ。愚かでなんて傲慢な考えだったろう。そしていま。もうすぐお前から突きつけられるのだろう。オレの過ちを。お前が、断罪して、「浮気した」と言うんだ。
「……は? はぁ!?」
 素っ頓狂な声が背中に突き刺さった。
「バカじゃねぇの!? おいこっち向けよカカシ先生!」
 ぐいと力強い力に引っ張られて、カカシは振り返った。煌々と青い火が燃えている。ナルトと視線がかち合って、カカシはたじろぐ。鼻孔をかすめるのは日なたの匂い、土や草、そしてかすかな花の匂い。カカシは眉をひそめた。
「なんでオレが浮気するんだよ!? 全然意味わかんねーぞ先生!」
 肩を引いた手は勢いを殺しきれず胸倉を掴み、ナルトは顔を寄せた。もう飛びかからなくても、背伸びしなくても、お互いがまっすぐ立っているだけで視線はかち合うのだ。
「……だってお前、花の匂いがするよ」
「花の匂いがなんだってんだよ!」
 話の噛みあわないナルトにイラつく。こんな感覚は久しぶりだったが、何度か経験したことがある。お前ったら昔から察しが悪くて、それなのに他人と関わろう関わりたいという気持ちばかりが先走るから、お前の話はいつだって要領を得なかった。舌足らずなその言葉を理解するには、まず「こういうことが話したいんだろうな」とこちらから察して、うまく言葉を補って誘導してやる必要があったんだ。それを分かるまでに随分苦労したし、最初の頃は話の通じないお前によくうんざりしては素っ気ない態度をとっていたな。大人気ないってそのあとよく落ち込んだものだ。次はちゃんと話を聞いてやろう。そんな決意をお前は知らないだろうに、それでも動物的勘で嗅ぎとって、何度も何度もオレに話しかけてくれたな。その健気さが堪らなかったよ。だからオレは、お前の察しの悪さも好きだったんだ。
「女の人の匂いでショ。ぷんぷん匂わせて、お前は任務中に何をしてきたんだ?」
「おんなの……? あっ、」
 ここまで言ってやらないと分からないなんて、本当にお前は物わかりが悪いよね。いまはその鈍くささが憎たらしくてしょうがない。
 まっすぐなまなざしから逃げるように目を逸らす。せっかく身長も同じくらいになったのに、まだオレの背丈が高かったときのほうが、お前の目を安心して見ることができたように思う。
「先生、あんな、」
「セックスしたんだろ。オレに隠れて。もうオレには飽きちゃったか。お前は若いし、いまや里の英雄だ。可愛くて綺麗な女の子なんて選り取り見取りだろ。そしたらこんなおっさんで男のオレは用済みか。お前に見放されたらオレはどうすればいい。お前がオレをここまで押し上げたのに、お前がいなければオレはとっくのとうに死んでいたし、火影になんてなることもなかった。いまのオレは全部お前が作ったんだよ。この目だけじゃない。オレの忍道も、オレの過去も未来も、オレの幸福、オレの道、オレの希望、オレという人間の全て、お前の存在が入り込んで分けられない。それなのにお前がオレから離れるなら、オレは死んでしまうだろうな。重い男は嫌いだったか。だから愛想を尽かして、こんな匂いをつけて帰ってきたのか」
 あぁオレは、こんなに往生際の悪い男だったのか。断罪のひとことを望んだくせに、いざ真実を突きつけられる直前になれば、みっともなく慈悲を乞う。
「人の、話を、聞けよ!」
 ガチン!と、胸倉を掴んだナルトの手ばかり見ていたオレの視界に火花が散った。
 悶絶するほどの頭痛。ナルトのむき出しの額が目に入って、そうかオレは頭突きされたんだなと理解した。理解したからといって、ずきずきと痛むことには変わりない。
「このあんぽんたん先生! オレは浮気なんかしてねーし、匂いってんなら木の葉への帰還途中に女の子おぶってきたからだよ。木の葉へ商いにいく集団の荷馬車が壊れちまって、影分身して運んだって報告しただろ。頭領の娘さんが足くじいちまったみてぇで、おぶってやったんだってばよ」
 てゆうかさぁ! ナルトは鼻息も荒く憤然として、まだ怒りは収まらないというようにオレの鼻頭をピンと弾いた。
「死んじまうってなんだよ。先生のそういうとこオレ嫌いだってば。先生が生きてんのも火影なのも、カカシ先生の実力だろ。……先生の過去なんか、オレの知らないことはいっぱいあるし、むしろオレのほうがガキのころから先生には知られてるし! カカシ先生にはいっぱい教えてもらって、忍道とか忍の生きざまとか、先生は修業にも付き合ってくれたし、オレの影分身の使い方だって。だから、オレのほうが先生でいっぱいで、オレは先生のことが大好きなのに、どうして浮気を疑うんだよ。どうしてそんなに自信がねぇの。里の英雄だなんて言われる前から、ドべだってみんなに言われてたときから、先生はオレを見てくれてたじゃん。先生はオレを選んでくれたじゃねぇか。嬉しかったんだ。カカシ先生と特別な関係になれたことが。先生ってば大人だし里の至宝だとか言われてるし、かっこいいしさ、オレなんかが全然釣り合わないって思ったこと、何度もある。でもそんな先生が選んでくれたのはオレなんだから、いつか絶対追いつこうって思ったら頑張れたんだ。なぁ、なんでオレが浮気したなんて言うんだよ。……死んじまうって言うんだよ」
 花の匂いがしたなんてきっかけにすぎない。本当はずっと不安だったのだ。固い蕾が花開くように、大輪に咲いたお前。蕾のころは良かった。オレの手で慈しんで、やがて咲くだろうときを待っていた。だがお前はあまりにも美しかった。誰の目をも惹きつける。不安に思って当然だろ。オレの手塩をかけて愛し慈しんだお前が、他の誰かに手折られるなんて。きっと堪えられないと思うんだ。
「お前のことになると、オレはどうしようもなく愚かになる。自信なんてないさ。お前は魅力的すぎるもの。お前が他に目を向けて、そいつを見初めたら、オレはお前の気持ちを止められないよ」
 実際止められなかったんだ。お前の同期はお前を諌めただろう。お前が危険に追いつく前に身を挺そうとした仲間もいたな。だがお前はその子の前にすら飛び込んで、その子の思いまで抱え込んで、走って走って走り続けた。オレはいつもお前の背中ばかり見ていたよ。
「……先生はさ、オレが女の子相手にセックスできるって、本当に思ってるんだな」
「男相手は?」
 ひくりとナルトの口端が引き攣った。あぁ、これは怒られてもしょうがないな。
「先生以外の奴ならみんな同じだ。オレがセックスできるのは先生だけだ」
 だってオレ、先生にしか勃たねぇもん。
 直截な言葉にギョッとするオレの目の前で、ナルトは服を脱ぎだした。



 日に焼けた手がオレを導く。ベッドに乗り上げた体を、何ひとつ身に纏うものなく裸身を曝け出したナルトが跨ぐ。
「せんせ、」
 密やかな声。マスクを下ろされてむき出しになった口元に吐息がかかる。生温かなくすぐったさはすぐに柔らかい感触に変わった。唇を擦り合わせれば甘く噛まれる。ナルトの艶やかな歯がゆるく下唇を引っ張るから、カカシはその意図を察して隙間を作ってやった。ぬるり、と入り込む舌。舌を絡め、歯列をなぞり、上あごをつつく。ナルトにしてやると喜ぶからついつい習慣化した口内の動きを、ナルトはそのままカカシに施す。クッと、咽喉の奥で出来損なった笑いが零れた。
 逞しくなった腕が背中に回され、胸と胸が密着する。ナルトは何も身に着けていないから、カカシのアンダーシャツ一枚分だけ隔たれている肌の温もり。どくんどくんと伝わる鼓動。
「んっ、」
 身じろけば服の繊維がナルトの敏感な先端に触れたのだろう。鼻の抜けた声は随分と艶を含んでいる。
 カカシの舌をちゅうちゅうと吸ったナルトの口内は、ふたりの交換した唾液が溜まっている。ナルトは慎重に口を離すと、体を下へと移動させた。
 ――あぁ、シてくれるんだな。
 カカシの膝を割り割いたナルトが、頬を子リスのように膨らませながら下穿きを寛げる。取り出したカカシのペニスに顔を近づけ、涎まみれの口の中へ迎え入れるのを、カカシはジッと見つめていた。根元を支え、ときにふたつの玉を転がしながら口をすぼめて肉に奉仕する。その一生懸命さを、カカシはナルトの体がいまよりずっと小さいころから見守っていたのだ。最初は口の中にカカシのものを全て収めきれなかったから、モミジのような手をローションや唾液で濡らして擦らせた。双球を巧みに弄らせる手管も、体の関係を持った初期に教え込んでいた。いまではカカシがお願いしたりナルトが興に乗ったりすると、口しか使わずに奉仕することもある。ナルトにとってフェラチオは口と両手ありきでするものだったから、手を使えないというのはハンデをつけたゲームのようで楽しいのだそうだ。
 ナルトの口の中でくちゅくちゅと唾液が泡立つにつれ、カカシのペニスも嵩を増していく。先端とくびれを上あごのやわこくつるつるしたところで擦られる。ナルトが口の中でお気に入りの場所だ。オレが何度もお前はここが好きだねと擦って教えた。
「せ、んせ……❤」
 トロンとした目に見上げられる。青い炎にいまや怒りの色はなく、揺らめいているのは情欲だ。いっぱいの感情を乗せた声音は白く泡立った唾液とともに口から零れた。
「ん、なーに? ナルト」
 手をやると、口に咥えたままナルトが頬ずりする。頬の内側に亀頭が角度を変えて押しつく。
「なぅとの、なか……きもちい?」
 舌足らずな声が媚を含んでいる。声変わりを終えて男らしく低くなった声が、あどけない言葉でカカシの機嫌を窺っている。ナルトの体が、いまより半分も小さかったころ、その未熟故に満足にカカシを慰めることができないと涙ぐんでいたかつての面影そのままに。
「うん。すごく気持ちイイよ。ナルトは良い子だね……」
 あのころと同じ言葉をナルトに言って。あのころと同じようにナルトは安心したように微笑む。あのころから何ひとつ変わっていない。
「ぁ❤ せんせ……おっきぃ❤」
 ナルトはこんなに体が大きくなって、骨も肉も追いつかなかった子どものころとは大違いだ。奔放に伸びてツンツンに跳ねていた髪も、歪な形で伸びていた手足の爪も、いまでは綺麗に切りそろえられている。頭を撫でるたび、その手に触れるたび、カカシがいつも気にかけていたら、知らないうちにナルトは髪も爪もちゃんと整えるようになっていた。切り揃えられた爪、その手がカカシの手を握る。指を互い違いにして、ぎゅっと。カカシと変わらないぐらいの大きな手だった。そうして自分で自分の手を封じて、口だけでカカシのそそりたった熱を育てる。頭を上下に揺り動かして、ナルトの唇が根元から先端を、先端から根元を締め付ける。
「んっ、くっ……」
 ぽってりと腫れぼったい唇から覗く赤黒いペニス、その血管が脈打ってはカカシを高ぶらせていく。カカシが声を漏らすと、ナルトは嬉しそうに目元をたわませた。
「せんせー、イきたい?」
 ナルトは執心していたカカシのペニスから口を離して、手を繋げたまま身を起こした。逞しく割られた腹筋、その下腹部に反り返ったナルトのペニスがある。先走りを零して金の陰毛を濡らしていた。
「オレも、せんせーのほしい❤」
 あまりにもその体は淫らで、言っている言葉もはしたないのに、ナルトはあっけらかんと笑うのだ。なにもやましいことなどないのだと言うように。素直にカカシをねだることは美徳だと、最初にカカシが教えたままに。

「あっ❤ あっ❤ あん❤❤❤」
「甘ったれた声だねぇ。昔はもっと高い声も出せたでショ」
 ガツガツといちばん奥を執拗に押し開きながら、カカシは流れる汗も構わずに律動した。ぱたぱたとナルトの玉の肌に落ちていく。重くなった足を抱え上げ、隙間もなく重なり合う。皮膚が擦れ、体毛は絡まり、汗やらなにやらは渾然一体となってシーツをじわりじわりと染みていく。お互いの体臭を分け合って、快楽すら高め合う。
「んー、アッ❤ ァアン❤ アンッ❤」
 わざとらしく高く鼻の抜けた声で仰ぐナルトは、カカシに体重をかけられ力任せに揺さぶられているというのに楽しそうだ。
「せんせっ❤ おれ、イっちゃ❤ イっちゃう❤❤」
「またイくの。さっきも出したばっかりなのに若いねぇ」
 ナルトのアナルをぐずぐずにほぐし、カカシの固い熱を入れ込んだ早々ナルトは達してしまった。まだカカシは射精していないというのに、もうナルトは二回目の絶頂を迎えようとしている。それも、カカシもナルトも、一度もそのかわいいペニスには触れていないというのに。
「らってぇ、せんせぇのちんぽ❤ すっげ、イイからぁ❤❤」
「オレのこれにごりごりされるの好き……?」
 言いながらナルトのいっとう弱いところに狙いを定めて強く擦る。
「んあぁぁ❤ しゅきっ❤ そこ、すきぃ❤」
 身悶えながらナルトは泣き叫び、好きと言った言葉通りにナルトの中も締め付けをきつくする。
「乳首は?」
 カカシがツンと尖ったピンクの乳首を摘まむと、ナルトは激しく首を振った。
「っ❤ おっぱい❤ おっぱいらめ❤ イきすぎるからぁ❤」
 最初は触れてもなにも感じず、「なにがしたいんだってば?」と首を傾げるばかりだったナルトの乳首は、長い年月をかけて丁寧に調教したおかげで、いまや立派な性器となっている。乳首のことを「おっぱい」と言わせるのも、カカシの教育のたまものだ。胸を弄らないまま行為を進めれば物足りなさに自分からすり寄ってくるのに、一度触れてしまえば火がついたように快感は燃え広がってナルトの頭をそれでいっぱいにする。あまりにも押し寄せる快感が強すぎて怖いから、いつもカカシから触れるときはナルトは嫌がる。
 むずかるナルトの頭をカカシは撫で、
「ね、ナルト。良い子だから……」
 耳元で甘く甘い擦れた声を吹き込めば、
「ぁ❤ っ❤ ~~~❤❤❤❤❤」
 ナルトの声は甘やかに途切れた。
「ん、うっ……」
 強い締め付けにカカシも精を放つ。カカシの下で体を開かれたナルトは、ぐったりと身を横たえながらちょろちょろと小水を零す。
「……漏らしちゃったか」
 気を失ったナルトの頬に口付けると、カカシは満足げに息を吐いた。



 ナルトの疑いが晴れて、その身が青天白日となった未明の頃。白々と上る朝焼けの日が届かない浴室に男がふたり。
「そうだね。お前はもう女の子抱けないね」
 男も。そう付け足したカカシは、悪びれた様子もなくむしろどこか嬉しそうだ。
「当たり前だろ。いったい誰がオレの体をこんなにしたと思ってるんだよ」
 ぬるまった湯船のなかで、ナルトは口を尖らせる。無茶な姿勢を取ったせいで関節が痛いし、いっぱい吸われたり弄られたせいで肌はジンジンするし、尻の奥にいたってはもうなにも言うまい。それでも、全身で愛し愛されたという充足感が、体中を巡っていた。
 もう身長も変わらないふたりの大の男が、浴槽に膝を擦り合わせながら対面で座っている。カカシはへりに預けていた背を浮かし身を屈めると、ナルトの膝頭に顎を乗せた。
「十二年かけて、オレが仕込んだんだもんなぁ」
 しみじみと呟かれた言葉は、ナルトに言って聞かせるというよりは独白じみたものがあった。十二年という年月を噛みしめているのだろう、カカシの目はぐっと細くなる。
「オレが生きてきた年の半分だぜ」
 ナルトは二十も半ばの若盛り。ふたりの過ごした年月の重みを的確に表している。
「すごいねぇ。お前生まれてきて今までの半分はオレに抱かれてきたの」
 四六時中セックスをしてきたと言わんばかりのカカシの言は正確ではないが、年齢の半分というならその通りである。ナルトは頷く。
「カカシ先生しか知らねーし、これからだってカカシ先生だけだ。先生としかできねぇよ」
 それなのに先生は、オレをこんな体にしておいてすわ浮気かと疑ったのだ。まったく許せないことである。
「そうだよな。この十二年間、そう願い続けてお前を抱いてきたんだもの。最近は無意識になりすぎてすっかり忘れていたよ」
 はははと笑う。そのけろりとした顔にナルトは盛大に湯をひっかけた。
「先生の変態に付き合えるのはオレだけだってばよ……」
「お前を変態に引きずり込んだのはオレだしな」
 湯に張り付いた髪を指で払い、カカシはナルトに顔を寄せる。こめかみから流れていくしずくが、ぴちゃんと跳ねた。
「お前のさ、あの声がたまんないのよ。オレのこと大好き❤ どうにでもして❤って声」
 オレの機嫌取るのうまいよ、お前。
 低い声は甘くナルトの耳に入り込み、ナルトの体も意識もとろかせていく。湯の中で這いまわされるカカシの手に意識を混濁させながら、なにを当たり前なことをとナルトは思った。
 カカシのことが大好きだからどうにでもしてほしいなんて、いつも声に出していることではないか。
 その声は高かったり低かったり掠れてハスキーだったり嗄れたりとさまざまだけど、十二年間、ずっと変わらずに。いまも。
「❤」





2017/4/25


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