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空は晴れているのに





エレンは調査兵団に捕えられた。憲兵団の手に、という声も勿論あったが調査兵団団長エルヴィンの巧みな説得と、なによりその兵士長リヴァイの有無を言わさぬ圧力と容赦のない武力行使の下、エレンの身柄は変わらず調査兵団預かりとなった。
まず最初に行われたのは尋問だ。どうして人類に反逆したのか、巨人に味方するとはどういうことなのか、そもそも巨人とは、巨人化する仲間とは、あらゆる疑問にしかしエレンが答えることはなかった。口を閉ざしたまま一週間、エレンは屈辱的な拷問に耐えている。
当然のことながら、エレンの監視役は以前と変わらずリヴァイが担っていた。変わったのはリヴァイの胸の内だけだ。リヴァイは徹底的にエレンを拘束した。その細い手首に手錠を嵌めて、頼りない首には犬猫にでもするように首輪をつけて。その首輪から垂れる鎖を、リヴァイは片時も離さず己の掌に巻きつけていた。
リヴァイはエレンが尋問の時に口を開かないことには何も言わなかったが、代わりに言葉を求めていた。リヴァイはエレンに“誓え”と言った。もう一生リヴァイの傍から離れていったりしないことを。エレンからの誓いを、リヴァイはところ構わず要求した。しかしエレンは口を噤んで黙するばかりなので、リヴァイはその度エレンの身体を犯した。昼でも、執務室でも、時間も場所も弁えず。
調査兵団中に醜聞が巻き起こるのは時間の問題だった。ハンジは露骨に顔を顰め、エルヴィンからは何度となく苦言を呈された。エレンの同期の連中からは射殺せんばかりの視線が向けられ、時には手厳しい言葉も頂戴した。しかしリヴァイは意に介さなかった。それ以外の口さがない者たちの噂話や非難は、リヴァイの名声と肩書きがその全てを叩き潰した。誰の態度にも兵士長は心を動かさず、リヴァイはエレンに言葉を求めることを止めなかったし、その身体を理不尽に蹂躙することに躊躇いはしなかった。しかしエレンは頑なに、リヴァイの乞うた言葉、その一言を口に漏らすことはしなかった。

「言え、エレン」
感情を排した男の声がエレンに降ってくる。
白昼堂々、書庫で強要された行為。その空気も、リヴァイの態度や眼差しも、全てが寒々しかった。身を焼くほどの熱が籠もるのは、エレンの身の内に入った男の性器だけだ。
エレンは口元を自分の掌で押さえた。吐息すら零れることを許さないようなその頑固さに、リヴァイは眩暈を覚える。
慣らさずに捩じ込んだエレンのアナルからは血が伝っている。捲れ上がった皮膚は痛々しく震えてリヴァイのものを無理やり飲み込んでいた。エレンには痛いばかりだろう。
「言ったら優しくしてやる」
後ろからエレンを抱き込んだリヴァイは、萎えたままのエレンのペニスを握る。人体の急所をどう扱うか、リヴァイのみが判断し決行することができる。エレンも分かっているのだろう、エレンが頷かなければリヴァイがそこを握り潰すことも辞さないことを。エレンは恐怖に背を震わせた。その反応を隊服越しに味わいながら、リヴァイは耳を食む。
「エレン?」
舌が耳朶へ入り込む。じれったく、いやらしく、舐めあげられる。じわじわと追いつめられていく感覚に、エレンの肌が粟立つ。エレンを執拗に責めたてるのはリヴァイなのに、逃げ場を失ったエレンを救うことができるのもリヴァイただ一人だけなのであった。酷い矛盾を感じて、エレンは臍を噛む。後悔しないと決めたのに。
首に付けられた鎖が無為にジャラジャラと鳴る。エレンが首を振っているのだ。縦ではなく、横に。リヴァイの舌から、その要求から逃げるように。
エレンを追いつめているのはリヴァイだったが、追いつめられているのもリヴァイだった。その証拠に。
「エレンっ」
いつまで経っても正解を答えようとしないエレンに、リヴァイは縋るかのようだった。エレンを抱き込むその拘束が強くなる。その必死さに。
「できませんっ…!」
エレンは堪らず声をあげた。痛いのは下半身じゃない、心だった。
エレンには宿命があった。逃れられない運命が。巨人化する身体は、その未来を縛りつけて、エレンの自由は杭で打たれている。エレンが自分の意志で思うままに動くことができることは、あまりにも少ない。決してこの人から、離れたかったわけではなかった。できることなら約束したい。でもできなかった。エレンが守りたいものは、もうこの男だけではないのだ。
エレンの拒絶に、リヴァイは静かに「そうかよ」と告げた。エレンの発した一言は、確実にリヴァイを傷つけただろう。
「あっ!」
リヴァイは激しい律動でエレンを責めた。エレンのペニスを握った手は放されることなく、強く扱いていく。前立腺を抉られながらペニスも刺激されて、血に濡れてもなお身体が慣れた快楽に反応しエレンの下半身に熱が集まっていく。ペニスを弄るのとは逆の手で、乳首をまさぐられる。こねくり回されて、か細い吐息が漏れた。
「や、ぁ…!」
まだ日の明るいうちに、誰が来るかもしれない部屋で、着衣を乱され、愛撫を施されている。相手はかつての恋人で、今では思いを告げることも許されない人だ。固く猛ったものを胎の中で感じる。どれもが理不尽なことのようにエレンには思えた。
「んっ、い、いく…!」
ペニスが解放を待ち侘びる。体温はどんどん上がっていって、心臓の音が煩い。自分の荒い息づかいも煩い。背後の男も射精が近いのだろう、その動きは急いたものになっている。エレンのペニスに爪を立てていた男の掌が、今度はその熱が放出するのを堰き止めるかのように根元を強く握った。
「な、んで、」
慈悲のない仕打ちに声が悲壮を帯びる。浅ましい身体は快楽を求めて揺れた。
「言え。言わなきゃこのままだ」
熱、が。籠って暴れ狂って仕方がないのに。リヴァイの下した命令に従うまで、暴力的な熱はこのままなのだ。それを理解してもなお、エレンは求められた言葉を口にしなかった。
快楽に流されて、この人の言うままに誓うことなどできない。
「強情な奴だなっ」
平坦だった男の息が乱れていく。エレンと違って、男の熱を阻むものは何もない。前立腺をごつごつと当てられて、エレンは啜り泣いた。
「エレン…!」
声と共に、雫が降ってくる。今日の空は輝かしいばかりに晴天で、それ以前にここは屋内だ。雨など降ってくるはずもない。しかし耳元を濡らすその正体を、エレンは雨だと認識した。一回で終わることのない行為の中、エレンは身の内に解放されることのない熱を持て余しながら、降り止まない雨に打たれるままにその冷たさを感じていた。

書庫で行われた無体な仕打ちから一週間経ったが、リヴァイは変わらずエレンを四六時中、文字通りその手元に置き、苛立ちのままに強姦した。そして先日、ついにはエレンに眠ることを禁じた。眠気から意識が朦朧とするエレンの頬をひっぱたき、水を被せ、睡眠欲を快楽と苦痛で捻じ伏せた。リヴァイが床に就く間は、彼の信用の置ける部下が子どもを寝付かせないように見張っていた。
そもそも人間に睡眠は必要不可欠である。どんなに強靭な精神と肉体を持っていたとしても、眠れなければ死ぬ。生死の際に追いつめられてもなお、エレンは言葉を発しなかったから、事態はこう着状態を喫し、精神、身体ともに損耗の激しいエレンの姿に先に根を上げたのはエレンでもリヴァイでもなく周囲の人間だった。
「エレンを殺す気?」とハンジはリヴァイを詰ったし、エルヴィンはもはやリヴァイがエレンの監視者として相応しくないことを淡々と説いた。
「それで?」
リヴァイは手に握った鎖を見せびらかすようにして言った。
「俺とこいつを引き離して、こいつはどうなる? おちおち憲兵団に引き渡して大事な情報源を殺させるのか」
リヴァイの拘束がなければ人類の安全は確保されない、そう信じている連中からすれば、この事態に際して喜び勇んで検体を解剖し、始末しようとすることは目に見えている。エレンの口は一生閉ざされたまま、世界の謎は闇に葬り去られる。その圧倒的な力も。
「監視には新たにミケをつけようと思っている。それだけでは不十分だと言うのなら、過不足なく人員は確保しよう。とにかく、このままであることは許されない」
決定は絶対だった。団長の権限に逆らうことなど、兵士長にはできない。
リヴァイは鼻を鳴らす。
「勝手にしろ」
それまで頑なに離さなかったエレンの手綱を、あっさりと手放す。鎖はジャラリと音をたてて、その一端を地につけた。リヴァイはエレンに一瞥することもなく歩き出し、部屋から出ていく。その扉が閉まる瞬間、エレンは膝から崩れ落ちた。リヴァイがエレンに眠ることを禁じてから、三日経っていた。














2013/6/29
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