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バカップル・メリーゴーランド





瞬く間に居酒屋を飲み込んだ痛ましい沈黙を破ったのはリヴァイだ。
「何だって?」
誰もが先ほどのエレンの発言の意味が分からなかっただろう。リヴァイもその真意を問う。発言の正しい意図が分かるのはエレンだけだ。
そしてエレンは今しがた気付いたばかりの大発見を嬉々としてリヴァイに告げた。
「リヴァイさん、俺今嫉妬しました!」
エレンが掴んでいたリヴァイの手を自分の胸に導く。
エレンの心臓がそこにはある。
「ここが、もやっとしたんです。俺のリヴァイさんなのに、って」
はしゃぐエレンにリヴァイは、いやその場にいた者は目を見開いた。
あのエレンが。
「勿論リヴァイさんはリヴァイさんのものですけど、でも俺のものでもありますよね?」
意図したように二人の婚約指輪がうすらと輝く。
「それなのにリヴァイさんが俺以外の奴にそのこぶしを…って思ったら何か嫌な感じがしました! これってジェラシーですよね?」
嫉妬という本来醜い感情を抱いたというのに、エレンの顔は朗らかだ。その感情を向けられて煩わしいばかりであるはずのリヴァイもまた、他者から見れば分かりにくいものだったが、その無表情な顔を僅かに綻ばせた。
「ああ」
満足げに一つ頷き、リヴァイは目の前にあるエレンの胸に飛び込む。
「でかしたぞ、エレン」
めでたく妊娠した妻に向ける夫のようなことを言って、人前であるにも憚らずリヴァイはエレンに抱きつく。抱きつかれたエレンも人目があることを気にせず、「やりましたね」と頷き、小さなリヴァイを抱えてその場で回りだした。
存分にイチャつきながら、くるくる回るその姿。
(なんだあれは!?)
(バカップルだ!)
(バカップル・メリーゴーランドだ!!)
リヴァイの体重はその小さな身体に反して決して軽くはない。寧ろ筋肉の詰まった身体ははっきり言って重い。それを苦にすることもなく、エレンはその場で回り続ける。二人はこれ以上嬉しいことがあるのかと言わんばかりだ。
嫉妬一つで。
たかが嫉妬。されど嫉妬。
二人が抱えていた嫉妬問題を正確に知る者はいない。その根本的な問題が解決されたわけではないことを、二人の内心のみが感じている。
それでも彼らが何をそんなに喜んでいるのか、推し量ることは難しい。
でも大切な友人が嬉しそうに笑い、その友人が選んだ無二の相手が満足そうにしているのだから、きっと良いことなのだろうとアルミンは心から二人を祝福した。もっとも素直な好感を抱いたのはアルミンだけで、その他の者の内心は複雑極まりなかったが。
満ち足りてメリーゴーランドに興じる二人にとって、そんなことはどうでも良いことだった。














2013/6/29
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