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「交渉上手は床上手」

俺は脂肪が付きやすい体質だけど、それと同じくらい筋肉も付きやすい。ハンバーガーにアイス、運動しないで家でゴロゴロしているような不摂生な生活を続けていると、流石にスーツのボタンもかけるのに一苦労するぐらい太るが、バスケでもアメフトでもちょっとはまってしまえば、脂肪なんてすとんと落ちる。代わりに筋肉がつくので、スーツのサイズが変わることはない。今は少しジョギングに凝っている時期だったから余分な脂肪もすっかりなくなって、わき腹なんかは引き締まったし、太ももやふくらはぎは逞しくなった。
こうなると男女問わず俺はモテる。街中を歩けば熱い視線を送られるし、実際に声をかけられたことも何度もある。特に同性からのアプローチは情熱的だった。アメリカでもゲイへの関心が高まって、いろんな運動が起きていた頃だ。なにもそんな昔の話じゃない。俺は純粋な好奇心から、その手のパブに行ってみたことがある。あの頃俺はバスケに情熱を傾けていて、体格も良かったと思う。おまけにテキサスをしてこなかったのでその童顔さ(あまり認めたくないけど)も受けて、俺はモテにモテた。初めは戸惑ったけど、彼らのことに興味があった俺は、紳士的な態度を一貫して取ってきた男性と一夜だけの関係を持った。感想を正直に言えば気持ちよかった。俺って女の子以外もいけるんだなとその時初めて気が付いたのだ。それからは何人かとも関係を持ってきたけれど、中には恋人になった人までいたけれど、それは全部、過去の話だ。何せ俺は今、あのイギリスと付き合っているんだから。
俺がイギリスへの恋心を自覚したのはざっと二百年以上前のことだ。独立前のことだったから、独立後のイギリスの態度を思い出すと、今でも胸が張り裂けそうな心地がする。まあ仕方なかったんだけどさ。国とはいえ、元兄弟、男同士だ、俺は当然この恋心を誰かに打ち明けるなんてことはしなかった。この思いは隠し続けなければいけない。隠して隠して隠し通して、いつかこの気持ちが風化するのを待つしかないって、あの頃は思っていたな。まあ風化せずに二百年間、俺の恋心は健在なんだけどね。ゲイのコミュニティに紛れ込んだのも、男の人と関係を持ったのも、叶わない恋に悶えて悶えてどうしようもない時だった。世間はだんだんゲイに対して偏見をなくそうとオープンになっていくのに、秘め続けなくてはいけない俺の思い。そんな時に魔がさして、イギリスとセックスする時は(絶対こないけど、と当時の俺は思っていた)どうやるんだろう? なんて興味が湧いた。セックスは気持ちよかったし、それから相性の良い人とは付き合ってもいたけれど、俺はやっぱりイギリスのことが好きだった。イギリス以外の恋人ができれば、イギリスなんて諦められると思った俺が甘かったんだ。それに気づいてからは、俺は男の人とも女の子とも関係を持っていない。いくら叶わない恋だからって、他の人と付き合うのは俺の気持ちに対して不誠実だと思ったからだ。
しかし奇跡は起こった。あれはフランス、パリへの会議後だった。顔馴染みに飲みに行かないかと誘われたけど、帰国後別件の仕事が入っていて、その資料を読んでおかなくてはいけなかったので断った。もし仕事が入っていなかったとしても、フランスにイギリスという組み合わせでは一緒に飲みたくなかったから断っていただろう。全く、あの二人には付き合いきれない。俺が資料を読み込んでいて、要所なら暗記したなという頃だった。多分四、五時間くらいは経っていたと思う。夜はとっぷり暮れていて、俺ももうシャワーを浴びて寝ようかなと思っていたそんな時だ。ジリリリリリとホテルの部屋の呼び出し音が鳴った。そこで嫌な予感がして、俺は気付かないふりをしようとした。俺は仕事の予習で夜更かししてしまったが、普通の人ならとっくに寝入ってる時間だ。そんな非常識な時間に押しかけてくる人に対して、誠意を持って相手にする義理はない。しかし呼び出し音は止まず、このままでは近隣の部屋に迷惑をかけるなというところで、俺は扉を開いた。そこには予想に違わずイギリスとイギリスに肩を貸したフランスが立っていた。
「今、何時だと思っているんだい?」
「ごめーん、坊ちゃん潰れちゃって、宿泊先もここしか教えてくれなくてさ」
「なんで俺の宿泊先をイギリスは知ってるんだい!?」
「それは俺にもわかんないや」
ごめーんと、フランスも酔っているのだろう、間延びした声が聞こえてくる。
「とりあえずお前に預けちゃうわ」
「なんでそうなるんだい!? 迷惑だよ!」
俺の抗議を無視して、フランスはイギリスをぐいぐい押しつけてくる。イギリスは自分の力じゃ立てないようで、俺が抱え込まなくちゃその場で崩れていただろう。
「あめりか〜」
イギリスが俺に抱き着いてくる。香ってくるアルコールの匂いに眉をしかめた。
「ほら、ご指名みたいだしぃ?」
フランスは茶目っ気たっぷりにウィンクを飛ばし、後は任せたと言わんばかりに立ち去って行った。
ため息を吐く。酔ったイギリスのお守りを押し付けられることは何度かあったが、わざわざホテルの部屋まで押しかけてこられたのは初めてだった。どうしようもない人だな、この人とイギリスを引きずりながら思う。一つしかないベッドに(当たり前だ、シングルの部屋なんだから)どさっとイギリスを下しても、イギリスはむにゃむにゃと寝息を吐くだけだ。靴を脱がせてネクタイを外し、襟元を寛げても抵抗のない身体に、長年の恋煩いへの苛立ちと長時間のデスクワークの疲労感から鈍い頭で襲ってやろうかとも思う。しかしそんなことできるわけがない。俺は彼のスーツを無理やり剥いでしまうと、大人しくシャワーを浴びに行った。頭を冷やすには丁度いい。シャワーを浴び終えて、狭いことに不平を漏らしつつも、彼の隣に潜り込んで俺も眠った。酒臭いイギリスに若干の不快感を覚えたけれど、もともと疲れていた俺はすぐに寝入ったのだった。
俺が眠ってから二、三時間も経っていないと思う。なにやら煩いし寝苦しいなと思って、俺は目を開けた。そこにはイギリスがいて、どうやら俺に馬乗りになって何かを呟いているみたいだった。寝起きの頭では理解がすぐにはついていけない。
「え、何だい?」
あまりのことで思わず出た間抜けな言葉に、イギリスは答えることはなかった。イギリスは目に涙をいっぱいに溜めて俺を見下ろしてきて、今にも涙は決壊して俺に降ってこようとしていた。
「あめりかぁ」
舌足らずな物言いで俺の名前を呼んできて、ときめくなんてこと俺はしなかった。眉を顰めたぐらいだ。この人、完全に酔っている。
「何だい、さっさと寝ちゃってくれよ、君」
酔ったイギリスの愚痴に付き合うつもりはない。ここぞとばかりに語られる彼の昔話は、不愉快を通り越して不快だ。ましてや寝ているところを起こされて何をいわんやだ。
「好きだぞ、あめりかぁ。きづけ、ばかぁ」
しかしその言葉は寝起きの俺の頭にクリティカルヒットした。
「え? は?」
突然のことで息もうまく吐けなかった。酔っぱらいの言うことだぞ、と理性の声が反論しても、なんせ二百年間片思いをこじらせ続けた俺だ。例えどんな意図があるにせよ、驚かずにはいられないし、その、嬉しいと思う気持ちもあった。
「あいしてるんだよ、あめりか」
呂律が回っているかも怪しい男は、ついに涙腺が決壊したのかぼろぼろと泣き出した。額や、頬に、彼の涙が落ちてくる。
「好きだ、ばかぁ」
そう言って彼は、俺の方に顔を寄せてきた。あ、と思う間もなく、俺は彼にキスをされたのだった。ちゅう、と吸い付いてくる唇に、もしかしてこれは日本的に言う「据え膳」なのではないかと思う。歯列を割って舌を絡ませようかとしたところで、目の前の男の重みが一気に強くなった。そのまま彼を横に倒すと、ぐぅと鼾が聞こえてくる。
「最悪なんだぞ、この人」
これでは俺も眠るしかなかった。

翌朝は翌朝で最悪だった。ぴぎゃーと泣き出したイギリスは昨夜の失態を覚えていたらしく、俺に謝ってきたのだ。それは良い。謝って当然なことを、イギリスはした。しかし酷いのは、彼は昨夜の言葉までもなかったことにしようとしたことだった。
「ごめん、アメリカ! き、昨日のことは忘れてくれ!」
土下座せん勢いで謝ってくるイギリスに、俺は冷たい眼差しを向けた。
「忘れろって、どういうことだい?」
いくらなんでも泣きながら告げてきたことだ、その本意は彼の言った通りだろう。なのにそれをなかったことにしようとはどういうことだろう。それでは昨夜の俺の気持ちは、二百年間の思いが報われたかもしれなくて嬉しいと思った俺の気持ちはどうなってしまうのだろう。俺は怒った。
「じゃあ昨日君が言ったことは全部嘘だったんだね」
シベリアもかくやという視線で彼を射抜く。イギリスは肩を揺らして、俺の眼差しに涙の痕を強くする。
「ち、ちげーよ!」
「ちがう? じゃあどういうことなんだい?」
条件反射で答えてしまったのだろうイギリスは、ぐっと言葉に詰まる。しかし俺も、それぐらいで許してあげるつもりはない。何としてでももう一度イギリスに「好きだ」と言わせたかった。
「ちゃんと言えたら許してあげるよ。君は俺のこと、好きじゃないのかい?」
「アメ、アメリカ…」
「うん」
イギリスをあまり怖がらせないよう、最低限の優しさを持って俺は彼の言葉を待った。イギリスは暫く言いあぐねていたようだけれど、やがて意を決したかのように顔をあげて、俺は「きた」と思った。彼の綺麗なグリーンアイズから涙がはらりと落ちる。
「お前のことを、愛しているんだ」
「好きだ」と言わせるはずが「愛している」と言われてしまった。彼はそういう重い男だったのをすっかり失念していた。しかし思いもよらなかった言葉にしても、彼の言葉は素直に嬉しいと思う。思うなんていまいち曖昧な言い方をするのは、彼の愛の告白にさながら弾丸でハートを打ち抜かれたような衝撃が俺を襲っているからだった。俺も、俺も愛しているんだと告げなくちゃ。心臓がばくばく鼓動を打って、俺の顔はみっともなく紅潮しているだろう。それでも頭の中では必死に彼の言葉に応えようと言葉を紡ごうとしていた。ここで「君のことを俺だって愛しているよ」なんてヒーローらしくかっこよく決めれば、それこそ物語はハッピーエンドだ。しかし俺から出た言葉はそんなにかっこいいものじゃなかった。ううん、みっともないものだった。
「お、俺の方が、君のことよっぽど愛しているよ、ばか!」
フランスあたりに言わせると、お前らってもうほんと兄弟だよななんて言われてしまう俺のみじめな告白も、イギリスにとってはそうでなかったらしい。彼は俺を抱きしめてきた。今思い返してもシーツを被って死にたくなるが、この珍妙な告白劇のおかげで、俺たちは付き合うことができたのだった。本来ならここでめでたしめでたしだろう。
しかし物語はハッピーエンドで終わらなかった。当たり前だ、俺たちは生きているんだから、こんなところでエンドなんてつかない。交際は始まったばかりなのだ。付き合いが始まって、それなりに順調だったのは昼間の間だけで、俺たちは夜になるとすぐに喧嘩をした。理由は単純で、性の不一致だ。昼間楽しくおしゃべりして、ディナーの時間も和気あいあいとして良いムードだ。夜が深まるにつれ二人の雰囲気はしっとりしてきて、啄むように始まったキスはやがて気分を盛り上げるような深いものに変わる。ここまでは良い。問題はここからだ。俺は紳士的にイギリスを押し倒そうとして、できなかった。相手も俺を押し倒そうとしてきたからだ。ぐぎぎと暫くお互いでにらみ合う。やがて俺の方からため息を吐いた。
「君さぁ、ウエイト差分かってる? 俺を押し倒すなんて無理があるよ」
今までのいくつかの経験の中で、当然のことながら俺はトップだった。ボトムの経験なんてない。それなのにイギリスは当然のように俺が下になるなんて思っていたんだから驚きだ。
「はっ。体格差なんて関係ねぇんだよ。お前は俺に任せておけば良い。気持ちよくしてやるから」
イギリスは俺の言葉に鼻で笑ってから、今度は猫撫で声を出して俺の頬をべろりと舐めた。その卑猥さに、俺は鳥肌が立つ。
「君、処女なわけじゃないんだろ? ここは経験者が譲歩すべきなんじゃないのかい?」
「なんで俺のケツの穴事情をお前が知ってんだよ」
明らかに苛立った声で、イギリスが聞いてくる。彼の機嫌を損なうことが目的ではないので素直にフランスだと告げる。あの野郎…とイギリスは俺には決して向けてきたことはない声で唸った。
「ここは良い経験だと思って、俺にヤらせろよ」
「やーなこった」
ここでいつも喧嘩は平行線を辿ってセックスどころではなくなるのだ。俺たちは付き合いだしてもう三か月経つけれど、いまだにセックスできていないのは、こういうわけだった。
飛行機が開発されていくらロンドンとニューヨークの行き来がし易くなったとしても、その距離が近くなったわけじゃない。それなりに時間がかかるし、毎日会える距離でもない。しかもお互い仕事の合間を縫って会っているのだ。そうやって貴重な逢瀬を重ねてみても、夜には必ず喧嘩をする日々を三か月だ、三か月間。いい加減お互い焦ってきていた。どちらかが折れないとこれから先もセックスなんてできないだろう。イギリスはここで殊勝にもひとつの提案をしてきた。
「なぁ、こうなったらお互いどっちも女役を一回ずつやってみねぇか」
その提案を聞いて、初めは驚いた。でも不承不承であったもののイギリスの提案に乗ったのは、俺もいい加減この状況を打開したいと思っていたからだ。下になるなんて冗談じゃなかったけど、ここで頷かなくちゃ俺たちは何も始まらない。ちょっと怖かったけれど、ヒーローの矜持がそれを口に出すことを許さなかった。ボトムをやるなんて大したことない、そう言い聞かせて俺はイギリスの提案を受け入れた。
「君がそこまで言うなら…、…わかったよ。で、どっちが先に下になるかい?」
俺としては経験者であるイギリスが先にやってもらった方が、何かと気は楽だった。しかしイギリスは頑なに首を縦には振らず、断固として俺が先にボトムをやるように主張してきた。
「体力のあるお前が先にネコをやってからタチになる方が合理的だろ」
最後にはヒーロー精神を持ち出してきてまで俺を説得しようとし始めたので、俺は泣く泣く了承した。確かにイギリスの言っていることは理に適っているし、どっちも女役をやるんだからその順番で揉めているのも馬鹿馬鹿しくなったのだ。
「良いよ、じゃあほら、特別に君にやらせてあげるんだぞ」
ヒーローの愛はかくも偉大であると思う。

ぬちゃっと音がしてイギリスは舌でアメリカの乳首を愛撫してくる。乳首なんて感じないはずなのに、イギリスの舌先がアメリカのを押し潰すように舐ってくると、背筋にピリピリとした刺激が走った。
アメリカの胸は筋肉がついて引き締まっている。その硬い弾力を楽しむかのようにイギリスは唇を押し付けてくる。終いにはちゅぱちゅぱと乳首に吸い付かれ、アメリカはあげたくもない声をあげた。その背が弓なりに反って震えているのを、アメリカは気付いているだろうか。
イギリスの不埒な手が胸を降りて行って割れた腹筋を撫で上げる。きめ細かい肌は既にしっとりと濡れていて、イギリスの手によく馴染んだ。腹の窪みに指を引っ掻けると、「ひゃう」と小さな声で喘いでイギリスの劣情を煽る。不埒な手は腹の穴に留まらず、どんどん下に降りて行く。アメリカの下生えを撫で、優しくそのペニスを握りこんだ。乳首と一緒に責められてアメリカのペニスも上下に揺すると、堪らないのかアメリカは「あっ」と声を漏らした。
アメリカは乳首とペニスを責められて漏れ出る声が恥ずかしいのか、手の甲を噛んで声を出すまいとしている。そのことに気付いたイギリスが、その手を優しく退けさせた。
「みっともなくねーから、声聞かせろよ」
イギリスの声は欲情で掠れている。アメリカも情欲で霞んだ目をイギリスに向けて訴えた。
「やらぁ、…恥ずかしいよぉ…!」
その声はもうとろとろに溶けていて、アメリカが感じ入っていることにイギリスは満足感を覚えた。先走りに濡れた手をアメリカの尻奥まで下ろしてアメリカの秘められた場所を撫でると、アメリカはぴくっと身体を揺らした。その次にくる行為がなんなのか、分かっているのだろう。
「慣らすぞ」
イギリスはいつの間にか手にしていたローションのチューブを握りしめて、アメリカに言い放った。アメリカはこくこくと頷くしかできない。正直、暴かれるのは怖かった。しかし今更「優しくしてくれよ」なんて言えるはずもない。ぶちゅり、と下品な音をたててチューブから出てきた潤滑剤を、イギリスは冷たさでアメリカが驚かないように手で馴染ませてから、アメリカの秘所へ導く。ぺたぺたとノック代わりに触ってみても、貞潔な窄まりは固く閉じたままだ。マッサージするように周辺を撫で、なんとかご機嫌を得ようとする。そのうち僅かに綻んできたのを、ここぞとばかりに一本咥えこませた。アメリカから小さな悲鳴があがる。人差し指一本、入れるのもまだきつく、何度も出し入れしてはローションを注ぎ足していく。できるだけアメリカの負担を減らしてやりたかった。敢えてボトムに甘んじてくれたアメリカにできる、最大限の優しさだった。もちろんそれ以外の思惑もある。アメリカにボトムをやることへの嫌悪感は最小限に抑えたいのが本音だ。
「はうっ、…あっ、あっ」
指を二本に増やしてやると、アメリカが苦しげに呻いた。これでもかとばかりにローションでぬるぬるにしたにも関わらず、異物感は拭えぬらしい。指をくの字に曲げながら、アメリカの良いところを探す。腹の側。あった。前立腺だ。そのしこりを勢いよく押し潰すと、アメリカから派手な嬌声があがった。
「ひゃあああ! な、なに…?」
「前立腺だ。お前の気持ちよくなるとこ」
耳元で囁いてやると、さっとその頬に朱を走らせる。可愛いものだなと、その頬に口付けた。血行の良いアメリカの肌は温かくて、むしゃぶりつきたくなる。前立腺を刺激しながらアメリカの耳を舐っていると、耳元でアメリカの高い声が聞こえる。その息遣いまで艶めかしくて、イギリスは舌なめずりした。二本の指をアメリカの中で閉じたり開いたりしていると、空気がローションと掻き混ぜられてぐぷりと音がする。夜のしじまにその音はやけに淫らに響いた。わざと音をたてるように指を動かすと、アメリカはいやいやをするように頭を振った。耳から犯されてゆくみたいだった。
「やぁ…、イギリスぅ、もっとぉ…」
舌足らずな声で、アメリカがもっとと強請ってきている。その申し出にイギリスは口角をあげた。もしアメリカが意識の溶けてない状態でその顔を見ていたら、そのあくどい顔にドン引きしていただろう。
「ああ、良いぜ。もっとよくしてやる」
イギリスはそう言うと、アメリカの柔らかい太ももを手に、ぐいと開かせた。アメリカの奥に秘められたアナルが、イギリスの目の前に赤裸々に開かれる。そこはイギリスの武骨な二本の指を咥えこんでなお、ひくひくと震えていた。
「アメリカぁ、いれっからな」
イギリスはアメリカの返事も待たず二本の指を名残惜しげに引き抜くと、既に勃起した自分のものをあてがう。熱いものが尻の奥に当たってアメリカは思わず「ヒッ」と悲鳴をあげた。その目に宿った僅かな脅えの色を、イギリスが見逃すはずがない。イギリスは嗜虐心を大いにそそられて愉快に笑うと、アメリカが今まさに犯されていくのが分かるように、ゆっくり自身のペニスを埋め込んでいった。
「ひっ、ひっ、」
アメリカが目に涙を滲ませて喘ぐ。カリの部分が埋め込まれて、熱いペニスが腹の中で脈動している。その未知の感覚に、耐えきれずアメリカはぼろりと涙を流した。やがてアメリカの尻たぶにイギリスの陰毛と陰嚢が当たって、アメリカはイギリスのペニスが全部己の腹の中に入ったのを知った。涙が止まらなかった。ああ、俺、犯されたんだ。とろとろに溶かされたアメリカの頭の中で、それは銃把でこめかみを殴りつけられたかのようにショッキングな出来事だった。
「アメリカ、泣くなよ」
イギリスがアメリカの涙をその唇で吸い取ってくる。挿入の角度が変わって、アメリカはか細い声をあげた。
「気持ちよくしてやるから、な?」
そう言って意地悪く笑うイギリスは今アメリカを苦しめている張本人なのに、そんなアメリカを救い出してくれる人はやっぱりイギリスしかいないのだ。アメリカは諦めたように目を閉じた。はらりと、涙が零れ落ちた。
しかしアメリカの美しい碧眼はすぐに見開かれた。イギリスの熱いペニスが、前立腺を容赦なく責め立ててきたからだ。過ぎた快感に、神経が焼き切れそうな心地がする。
「きゃっ! や、あっ、…あ!」
前立腺をごりごり責められて、アメリカのペニスは腹に付くほど勃起している。アメリカのペニスはぱんぱんで、辛かった。早く解放したいと言わんばかりに鈴口がひくついている。
「あ! も、もう、いっちゃ、…もういっちゃう!」
早く楽になりたくて、自分のペニスに手を這わせようとすると、やんわりとしかし確かな強さをもって、イギリスにその手を阻まれた。
「なんれっ?」
呂律のまわっていない口で抗議しても、イギリスはただ笑うばかりで、アメリカは絶望した。まさか後ろの快感だけで、達しろというのか。
「やぁ、むりぃ、っ、いぎりしゅっ!」
自分を追いつめている男に助けを求めなければならない惨めさにアメリカは泣いた。同時に、アメリカの被虐心が僅かな歓びを心の奥底で訴えていて、アメリカはそれを認めたくなくて首を横に振った。
イギリスの追い立てはどんどん激しくなってくる。それに合わせてアメリカの嬌声にも隠しきれない甘さが滲んでいた。
「やらぁ! も、むりぃ…!」
びゅく、と音をたててアメリカは吐精した。久しぶりのせいか、濃くて熱い精液は二度三度と溢れ出てきて、アメリカの胸まで汚した。
「あ、あめりか、俺も…!」
アメリカが射精したと同時に強く締め付けられて、イギリスも耐えきれずアメリカの中で達した。びくびくとイギリスのペニスが脈打つ感覚に、アメリカは吐息が漏れる。
こうしてアメリカの初めては終わりを告げた。後はイギリスにもボトムをやってもらえれば、万事解決だ。しかしアメリカはそこで違和感を感じた。終わったばかりの気怠さも合わせて、初めての尻への挿入で思った以上に体力の損耗が激しい。これじゃあ、よし次はトップをやってみようという気にはなかなかなれない。普段のアメリカの体力はチート過ぎるのも良いところなのに、やっぱり初めてのボトムは予想以上にアメリカの身体に負担を強いたのか、指一本満足に動かすことができない。アメリカがトップをやるのは、次回までお預けだなと、アメリカがため息を吐いた時だった。
「やっ、なに…?」
未だ抜かれていないイギリスのペニスがゆっくり動き出したのだ。
「なぁ、アメリカ、良いだろ?」
イギリスはアメリカの涙の溜まった眦をべろりと舐める。その性的さに、アメリカは怖気が走った。
「やだぞ! もうしないぞ! それに次は俺の番じゃないか」
必死でイギリスに訴えると、イギリスは呆れたようにアメリカに言った。
「腰ぬけてるくせに、なに言ってんだ」
イギリスは腰をゆっくり揺らし、出したばかりで敏感になってるアメリカの身体を紅潮させた。
「やっ、あ!」
「それにお前、乳首感じてたし、最後は尻だけでイったし、こっちの素質あるんじゃねぇの」
イギリスが下卑た声で笑うのを、アメリカは「くたばれ」と返すことしかできない。イギリスが本格的に律動を再開し始めて、やっとアメリカは違和感の正体を知った。
イギリスはもともと、ボトムをやる気なんて、これっぽっちもなかったのだ。先にアメリカをどろどろに犯してしまえば形勢逆転などできないと、イギリスははなから予想していて、実際その通りになった。アメリカは歯噛みした。一から十まで、アメリカはイギリスの掌で踊らされていただけだ。
「や、らぁ、嘘つき! いぎりすのうそつきぃ…!」
責める言葉も、どこ吹く風。イギリスは例の意地悪い笑みでアメリカに言い放った。
「坊や、夜はまだまだこれからだぜ」







交渉上手は床上手






2013/2/18
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