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今日も元気によろしくしてます





(そんなこともあったなぁ) 
懐かしいなぁなんて。エレンは初デートの日のことを思い出していた。中々ハードな初デートだったが、その夜は仲良く和食を食べてコンビニでアイスを買った。潔癖症のリヴァイは歩きながら食べることを良しとしなかったので、コンビニに併設された簡易の食事処でアイスを食べた。そしてその後それぞれ帰路に就いた。出された定食は美味しかったし、アイスも陳腐な甘さがしてよく舌に馴染んだと記憶している。
何故エレンがそんなことをつらつら考えているのかというと、立派な現実逃避である。
「おい、何を考えている」
椅子に座ったリヴァイが、足を組んでエレンを見下ろしている。その視線は冷たい。リヴァイに対して、エレンはリヴァイの正面足元で正座だった。今はお仕置き中なのである。
「リヴァイさんのことですよ」
リヴァイの機嫌がこれ以上悪くならないように、エレンも必死だった。少々打算的な言い方をしたが、嘘は言っていない。
エレンは先日、女の子からメールで食事のお誘いを受けた。嫉妬深い恋人に余計な心配をかけさせたくなくて、その誘いを断った。そこまでは良かったのか、いややはり良くなかったのかはリヴァイにしか分からないが、その断りのメールが丁寧すぎるということで、リヴァイはご立腹なのであった。
リヴァイにスマートフォンを取られる前に、メールを消去することは勿論できたし(リヴァイは必ず夜に携帯をチェックするので)、そうしようとも考えたのだが、エレンは自分が器用な性格でないことを知っていた。どこかでボロが出て、真実を知ってしまったリヴァイがどう思うか、万が一にもエレンの誠実を疑い傷つけてしまうようなことがあるのなら、とてもそんなことはできなかった。
女の子のアドレスは、リヴァイ自ら着信拒否の設定を施した。リヴァイ自身はガラケー所持者だというのに、リヴァイはスマートフォンの扱いを完璧に心得ている。それも全部エレンの為なのだ。
リヴァイ曰く、丁重な文面は悪戯に相手の気を持たせる。今回は駄目でも次はいけるんじゃないか、そう思わせることが既にアウトなのだそうだ。
リヴァイの言に納得したエレンは、こうして素直にお仕置きを受けているという訳だ。 「集中しろ」
“見てろ”とリヴァイは命令した。随分奇妙なお仕置きだった。エレンは正座して、リヴァイのことをひたすら見ていろと言う。
リヴァイはアイスキャンディーを咥えていた。
ごく普通の、ピンク色をしたアイスキャンディーはストロベリー味だ。
それをただ舐めしゃぶっている。
何が何だか分からないエレンは、何となく昔を思い出していたという訳だ。
状況の意味が分かっていないエレンに、リヴァイは溜息を吐く。
「想像しろ」
何をだ? エレンは首を傾げた。リヴァイは口元を小さく歪めた。
「俺は今、お前の乳首をしゃぶっている」
何てことを言うんだこの人は、という驚きは「は?」の一音で表された。
エレンの理解は置き去りにされたままだ。しかしリヴァイはいつだって、困惑するエレンのことは待ってくれるのに、混乱するエレンのことは待ってくれない。
「てめぇの乳首を舐めしゃぶられてんだと、お前も想像しろ」
平然と無理難題を押し付けてくるリヴァイにどうしたものかと思っても、今はお仕置き中なのだ、エレンには従うしか道は残されていない。
リヴァイはじれったくアイスキャンディーをチロチロと舐めている。卑猥かと聞かれればそんなような気もするが、それより早く食べないとアイスが溶けるんじゃないかとエレンはハラハラした。
エレンは嵐のように激しい愛撫よりも、優しく労わるような愛撫を好む。まだ理性を繋ぎとめておけるから、そっちの方が良い。大の男が、良いようにされて啜り泣き悦んでいるなどと、エレンの羞恥心が耐えられない。しかしリヴァイはそんなエレンの羞恥心を甚振ることが大のお気に入りだ。恥じらう姿も、理性を放り投げて曝け出された恥ずかしい姿も、その過程に至るまで、並々ならぬ執着心を持っている。
冷房の効いた室内では、エレンが思うほど簡単にはアイスは溶けないものらしい。
相変わらずアイスを舐めしゃぶっているリヴァイの愛撫は、エレンの身体を労わるようなものだ。
あ、と思った。今エレンは何を考えた。愛撫? エレンの身体? リヴァイは舌はおろか、その手一つ、その指一本ですらエレンに触れていないというのに。まだ。
エレンは自分の思考に顔を赤らめる。まだって何だ。まるでエレンが早くリヴァイに触れてほしいようではないか。触って、なぶって、舐められて。
どくん、と心臓が大きく鳴る。聞こえているはずがないのに、リヴァイは口角を上げた。
リヴァイが口を窄める。ちゅぱっ、といやらしい音がした。いやらしい?
エレンは身体が火照ってくるのを止められない。エレンの意志を無視して、エレンの身体は懸命にリヴァイから与えられる熱を思い出そうとする。その快楽を。
「っ」
エレンは息を呑んだ。確かに乳首がじくりと疼いたのだ。そんなまさかという思い。触られてもいないのに。リヴァイがアイスキャンディーを舐める様を見ただけで。
リヴァイが先端を舐めあげる。だめだ。そんな風にされたら、乳首が期待で膨らんでしまう。
エレンはいつの日かの乳首調教を思い出していた。あの時もリヴァイはアイスキャンディーでも舐めるかのように、エレンの乳首を可愛がった。そんなことをされては、リヴァイが氷菓を口にする度に舌の動きを思い出してしまうと、危惧したのはエレンだ。そして、その通りのことが、今エレンの身体で起こっている。
あの時の熱く濡れた赤い舌。蠢く小さなリヴァイの舌が、エレンの乳首を。
エレンの思考はアイスより先にどろどろに溶けた。
だめだって、だめ。
もはや停止の声が、リヴァイへのものなのか、エレン自身へのものなのか、エレンには分からなかった。
その舌の動きを止めてほしい。
勝手に身体が期待で疼くのを止めてほしい。
今まで散々丁寧に舐めるだけ舐めしゃぶっていたアイスキャンディーに、リヴァイは容赦なく歯を立てる。
シャクリ、
「あっ」
音と声は同時だった。リヴァイが咽喉の奥で笑う。
リヴァイが時間をかけて一本丸ごとアイスキャンディーを食べ終えた頃には、エレンは息も絶え絶えだった。
何もされていないのに、酷く息苦しい。
身体に籠った熱はどうしようもなく、エレンの身体をじりじりと追いつめる。シャツで分からないが、エレンの乳首はきっと立っていることだろう。
リヴァイは組んでいた足を解いて、片足をエレンの股間に導いた。「ひゃ、」エレンは驚いた。強く押さえつけられたそこは、緩く、勃起している。
リヴァイは勝ち誇った顔をして言った。
「変態」
その通りだった。羞恥心で頬が赤く染まる。浅ましい身体になってしまったものだ。これも全部。
「だれの、せいだとっ…」
涙交じりの訴えに、「俺だな」とリヴァイは何でもないことのように言う。
「安心しろ、責任はとってやるさ」
嬉々として告げられた言葉に、これがお仕置きならもう充分だろうとエレンは思った。

そのままリヴァイの足で射精を強制されると思っていたエレンだったが、解放寸前になって「まぁだ」と告げたリヴァイに己の予想が間違っていたことを知った。
リヴァイは口内か胎内でエレンに射精させることを好む。その理由もエレンは身をもって知っている。リヴァイが胎内でその熱を(ゴム越しではあるが)受けたいと言うのなら、エレンもリヴァイの望む通りにする。その代わり、リヴァイの準備は丁寧に行う。一刻も早く繋がりたいリヴァイは、自分への愛撫を軽視している。エレンの平常心が溶けているのを良いことに、そのままなし崩し的に行為に及ばれたことは何度もある。しかし愛撫とは本来、その名の通り愛を伝え合う大事な手段だ。エレンはそれを疎かにはしたくない。
エレンはリヴァイの胸に顔をうずめて、その谷間にちゅうと吸い付いた。赤い痕が残ったが、ブラジャーで隠れてしまう位置なので問題ないだろう。
身体に痕を残すことは、エレンよりリヴァイの方がよく行う。遠慮もしないし、場所も自分のしたいところに満足するまで止めないから、エレンはいつも痕が見えないように苦心する。そうは言っても、エレンの着る服は全て「今日はこれだ」とリヴァイが選んだものであるため、エレンには髪で隠すとか、角度を気にするとか、そんなことしかできない。エレンより背の高いライナーに、「随分情熱的な彼女だな」と苦笑いされたことは記憶に新しい。ベルトルトは恥ずかしそうに目を逸らしていたっけ。
エレンは茂みを辿っていた指をゆっくりリヴァイの中に入れた。リヴァイはエレンを「変態」と言ったけれど、エレンの痴態を見たリヴァイの蜜壺は濡れそぼっていた。これじゃあ俺のことは言えないじゃないか。エレンは声をあげかけたがやめた。それに、どちらか一方だけなのではなく、お互いが変態なのだとしたら、それはそれで幸せなことなのだろうと思う。自分が変態であることは恋人だけが知っていれば良いし、逆もまた然りだ。
暫くエレンは人差し指と中指でリヴァイを愛撫した。リヴァイの声が上から降ってきて、トロトロと愛液がエレンの指の付け根まで濡らした。切れ切れとリヴァイが「もう十分だ」と訴えるので、エレンも素直に頷き、自分のペニスにゴムをつけた。
ゆっくりとエレンがリヴァイに割り入っていく。挿入はもはや慣れた行為だった。お互いの呼吸はしっかり合っている。リヴァイの中がエレンの形に馴染むのを待って、リヴァイは動き出す。エレンはリヴァイの華奢な腰に手を添える。二人の毛が絡まった。
お互いの良いところは把握済みだ。リヴァイは狙ったタイミングでエレンのペニスをきつく締め付けるし、エレンもリヴァイの弱くなるところを突くのを忘れない。
お互いがお互いを想い合い、労わり慈しみながら愛を分け与えるセックスが、エレンは好きだった。
エレンの身体はすっかり淫乱なものへと作り変えられてしまったけれど、それでもリヴァイとセックスをするようになって良かったと思える。
セックスは大事な人を傷つけるものではない。
大事な人を大切にする行為だ。
エレンとリヴァイのセックスは、いつも優しい気持ちで溢れている。
相手を愛しているからだ。
二人の間には勘違いもすれ違いもあったけれど、今愛する二人は優しくし合って生きている。
エレンは過去、優しくするとはどうすることなのか分からなくなっていた。
分からないまま、大事にしたい人を傷つけてしまうことを極端に恐れた。
しかしエレンがどんなに心を砕いても、傷はついてしまうものだった。
これが世界の理だ。
なら、ついた傷は癒せば良い。消毒してガーゼを貼るように、その存在をあるがままに受け入れて、自分の気持ちを素直に伝えること。不安にさせたのなら約束すること。与え、求めること。
エレンが見つけた、優しくする方法だ。
リヴァイに包まれて、幸福感がエレンの身体中を満たしてゆく。
同じものをリヴァイも感じていれば良いと思った。
種子を吐き出すその瞬間、エレンは愛おしげにリヴァイへ口付けた。リヴァイもそれに応えてくれる。
想い、想われる。世界はどうしようもなく美しい。
エレンとリヴァイの日常は続いていく。
積み重なった情は、エレンとリヴァイを育んで、やがて大きな実を結ぶだろう。
それをきっと人は愛と呼ぶのだと、俺はこの人を愛しているのだと、エレンは母に教えてあげたかった。














2013/6/29
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