inserted by FC2 system








二人でラブホにしけこんで…!?





どこかとはラブホテルのことだった。
一時の避難場所にラブホテルとは、定石なのかもしれない。勿論二人ともラブホテルを利用するのは初めてだ。まだ日が暮れかかっている時間帯、エレンはどぎまぎしながら、リヴァイは一見冷静に見せながら、そのホテルにチェックインした。
リヴァイは今、シャワーを浴びている。
埃と汗にまみれた自分の身体に我慢がならなかったからだ。それ以外の思惑があるのかどうかは、リヴァイにしか分からない。
リヴァイは己の裸身をまじまじと鏡越しに見た。
目つきが悪いのはいつものことだ。この際(どの際だ)関係ないだろう。
リヴァイは自身の胸部を見る。ふくよかとは決して言えない。申し訳程度よりかはちょっとはあるんじゃないかな、というくらいの些細な胸だ。これでエレンは満足するだろうか。世の男性諸君と同じく、エレンは大きい方が好みだろうか。一部には控えめな方が好ましい人種もいるようだが、エレンがどちらかは定かではない。リヴァイは、己の馬鹿な考えを振り切るように首を横に振った。もし大きい方が好きだと言うのなら、エレンに揉ませて大きくすれば良いのだ。小さい方が良いのなら、このままでも問題ない。問題があるとすれば。
リヴァイは自身の腹部に手を這わせた。女らしい柔らかさなど欠片も存在しない、腹筋に覆われた腹は、固くたくましい。自分の腹筋を誇りに思ったことも卑下したこともないが、流石にこれはエレンに失望させてしまうのではないかとリヴァイは危惧した。
リヴァイは再び首を振る。飛沫が散った。らしくない。エレンのことになると、いつもの自分が分からなくなる。少なくとも自分の胸やら腹について、こそこそ不安に思う自分など本当にらしくない。
リヴァイは身体の隅々まで入念に洗って風呂を出た。
消毒液と湿布、ガーゼを買うために立ち寄ったドラッグストアで、こうなることを予想していたリヴァイは下着を買っていた。穿いていたものを洗濯もしないでもう一度穿く気などリヴァイには起きない。シンプルな、白い下着だった。リヴァイは片眉を上げた。服だけはしょうがないのだが、今だけは我慢せずガウンを羽織ることにした。
風呂場から出ると、ベッドに腰掛けたエレンの上半身は裸だった。
ドキリ、と心臓が跳ねる。
エレンは自分で自分の身体に治療を施しているようだった。不器用な手つきで、ガーゼを貼る。
ほっとしたような、落胆したような気持ちで、しかし素知らぬ風にしてベッドの縁に腰かけた。ぎしりとスプリングが鳴る。
暫し気まずい沈黙が部屋に満ちた。
「あ、リヴァイさん。俺だいたい終わったんで、これ、使ってください」
沈黙を破ってエレンは簡易治療セットをリヴァイに手渡す。
「俺、あっち向いてますから」
エレンはリヴァイに背を向けた。エレンはリヴァイが腹に一撃を受けたところを見ている。治療をするのなら先ほどエレンがしていたように、上半身裸にならなければならない。エレンは気を遣う男だし、リヴァイもエレンの手ずから治療を施されたいなどとは思っていない。
なのに何なのだ、この悄然とした心持ちは。
僅かばかりの面白くなさを感じつつも、リヴァイは大人しくガウンをはだげさせてから患部に消毒液を塗る。ぴりりとした痛みに、思わず小さな吐息が漏れた。
「痛みますか?」
気配を敏感に察知したエレンが、背中を向けたまま心配そうに声をかける。
「痛くねぇ」
本心だったが、言葉通りに受け取ってもらえたかは分からない。エレンはしょんぼりと肩を落とした。
「すみません、貴女を傷つけてしまって」
リヴァイは眉を顰める。エレンの言葉に違和感を感じたからだ。
「別にお前が傷つけた訳じゃねぇだろ」
エレンに殴られたのではない。暴力を振るってきたのは、愚かなチンピラどもだ。
エレンが申し訳なく思う必要はどこにもないし、それにリヴァイはエレンが自分を追いかけてきてくれて嬉しかった。初めて見たエレンの狂気すらも、リヴァイは脅えるどころか面白いと思った。リヴァイにとって、今日は多少ケチはついたが興味深い一日だった。しかしエレンはどうだったろうか。「それに、」リヴァイは言葉を付け足した。
「謝るなら俺の方だろう。面倒事に巻き込んじまって悪かった」
エレンからしてみれば、せっかくの初デートに大乱闘を体験したのだから、軽いトラウマくらいにはなっているかもしれない。
しかしエレンは首を振る。
「いえ、そんな事はどうでも良いんです。俺が何より許せないのは、好きな人を守れず傷つけてしまったことです」
エレンからの“好き”発言に手元が狂った。貼られたガーゼは歪に端が折れた。
「すき、」
ただ繰り返しただけの言葉は肯定される。
「好きです。だから俺は俺が許せない。大事にするって、もう傷つけないって、誓ったのに…」
エレンの言う誓いが何なのかを、リヴァイは知らない。しかし苦しげに呟いたエレンを、リヴァイは放っておくことなどできなかった。
リヴァイはエレンを後ろから抱きしめた。突然の行動に驚いたエレンの身体が跳ねる。 「なら、俺がお前を許そう」
自分で自分を許すこともできない。エレンはどうしようもない不器用だ。そんなエレンを辛いままにしておくことができなかった。
エレンはリヴァイが傷つくことを恐れているのだろうか。リヴァイが傷つくことを不安に思っているなんて、ちゃんちゃらおかしいことだと思う。そう思わせる。 「良いか、クソガキ。よく覚えておけ」
今までエレンにはいろいろなことを教えてきた。でも今から言うことが、きっとエレンを救ってくれる。
「俺は強い。だから俺は傷つかない」
だから安心しろと言う、リヴァイはとても優しい気持ちだった。こんなに慈しみ深い気持ちを持ったのは、生まれて初めてのことだった。














2013/6/29
inserted by FC2 system