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蛇足





エレンが学食でカレーを食べていると、目の前の席に座るようにしてハンジが現れた。ハンジはB定食のトレーを机の上に置いた。それに手を付けることなく、ハンジは朗らかに告げた。
「リヴァイとセックスしたんだね、良かったよ」
おめでとうかな? と笑みを溢すハンジに、エレンは赤面しながら「ハンジ先輩」と咎めるような声を出す。とても麗らかな昼休み中の学食で話す話題ではない。しかしハンジに気にした素振りは見られない。そういう人なのだ。
「あいつ、ほんとにありえないくらいこの前まで意気消沈しててさ、ゼミ中みんな震えあがっていたんだ。でも今日はすごいご機嫌だったよ」
あと肌がつやつやしてた。
そう零して、何でもない事のようにハンジは白米をかき込む。エレンは恥ずかしくてカレーどころではない。
「ハンジ先輩には、心配かけました。俺たちのために、ありがとうございます」
ハンジが自分たち二人のために尽力してくれたのは事実だ。その効果はあったようでなかったような感じだが、感謝の念は絶えない。
「君とのデートすっぽかしてエルヴィンと会うように進言したのは私だ」
やっぱり、とエレンは思った。前回ファミレスでの話の中で、そのような当たりをつけていた。ハンジは随分踏み込んだ話題を突いてくる。
「君、エルヴィンに嫉妬しなかったんだってね」
あいつ、世界が終わったみたいな顔してたよ。
そう、セックス問題が解決した後、そのことについて散々リヴァイ当人に詰られた後だった。エレンにとって、何とも頭の痛い話だ。だって嫉妬なんて。しないものはしないのだ。
「嫉妬しなくても俺はちゃんとあの人のこと好きです。それに俺はリヴァイさんのこと、信じてますから」
カレーを掻き混ぜながら言うと、ハンジはふぅんと息を漏らした。顔にはでかでかと「解せぬ」と書いてある。エレンは苦笑した。

教室移動している途中でエルヴィンと会った。
「やあ、エレン。ついにリヴァイと思いを交わしたんだってね、良かったよ」
いや、おめでとうかい? そう言って爽やかに笑う男に、エレンは嫌そうに顔を顰めた。
「まさかリヴァイさんが言いふらしているんですか?」
そんなこと言う人にはとても思えないというエレンの印象を、エルヴィンは肯定した。
「いや、違うよ。ついこの間までリヴァイは手が付けられないほど荒れていてね、ゼミ中を恐怖のどん底に突き落としていたのに、今日は怖いくらいご機嫌だったから」
屈託なく笑うエルヴィンに悪意は感じられない。そういえばこの人は、ハンジ曰く「エレン・イェーガーを嫉妬させちゃおう大作戦」に惜しみない尽力を尽くしてくれた人なのであった。
「俺たちの面倒事に巻き込んで、すみませんでした。俺たちに協力してくれたみたいで、ありがとうございます」
ぺこりと頭を下げると、気にしなくて良いと言うように肩を軽く叩かれる。純粋に良い人なのだと思う。
「しかしあの時君は私に嫉妬しなかったようだね。あの時のリヴァイときたら、死にそうな顔をしていた」
はあ、とエレンは曖昧に頷く。またこの話題だ。
「俺はリヴァイさんを信じてますので」
そう言うとエルヴィンは頷きはしたものの、何か不可解なものを見たとでも言いたげに去って行った。授業開始の時間が近い。
恐らくハンジもエルヴィンも、リヴァイが浮気しないことをエレンが信じているというように受け取っただろう。
しかしその実情は違う。
エレンはもし仮にリヴァイがエルヴィンやその他の男と浮気したとしても、リヴァイの下したその選択を信じているに過ぎない。
しかしそのことを正直に伝えるつもりはなかった。恐らく二人には、いやきっとリヴァイにも理解してもらえないだろうからだ。
エレンは再び苦笑した。














2013/6/29
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