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今夜月が照らす頃





時刻は十八時三十分頃。まだ夜とは言えない時間なのに、今夜って言ったのに、帰って早々、玄関の扉を閉めた途端、リヴァイさんは俺にベロチューを仕掛けてきた。
「ベッドで…! その前にシャワー!」
息も絶え絶えな俺の訴えに、リヴァイさんは鼻をフンと鳴らして片眉を上げた。
結局ベッドは許してもらえたけど、シャワーは許してもらえなかった。
「あんた、潔癖症でしょう!?」
服を脱がされながらリヴァイさんのアイデンティティーに訴えても、歯牙にもかけてもらえなかった。鬱陶しげにエレンを睨む。
「くどい。それより早く繋がりたい」
そう言われてしまえばぐうの音もでないのであった。

ぐちゅぐちゅといやらしい音が聞こえる。煌々と照らされた室内で、何がどうなっているのか窺うことは容易い。エレンは全裸でベッドに寝転がされていて、同じく一糸纏わぬリヴァイに跨られて手淫を施されているのだ。
室内の明かりはつけること。
リヴァイが上に乗ること。
それがリヴァイの提示した決定事項であった。リヴァイに身体を跨れることに抵抗はない。もともと組み敷かれるリヴァイを想像できなかったエレンだ。しかし明かりがついていることには羞恥心を禁じ得ない。真っ暗にしなくても良い。サイドテーブルの光だけで勘弁してくれと、少しでもいいから薄暗くしてくれというエレンの願いは、聞き届けられなかった。曰く、エレンの全身隅々まで、恥じらう姿も余すことなく見たいらしい。そうしてエレンはリヴァイの望むままに痴態を曝け出していた。男の一物など初めて手にするだろうリヴァイは、しかし躊躇を見せずあまつさえ可愛いものだなとせせら笑ってエレンのペニスを握りこみ、その小さな手で強弱をつけてエレンに刺激を与えていく。エレンの反応を熱心に観察して、的確にエレンの弱いところを責めていく。
「おら、もっと声出せ」
漏れる息遣い。しかし女じゃないんだから女みたいに喘ぐことなんて出来ない。
「ふっ…、んぅ」
言われた通りに素直に声を小さく漏らせば、くくと咽喉で笑う気配。どうやらお気に召したようだ。
どんどん硬度を増していくペニスにリヴァイは愛おしげに口付けると(あの潔癖症のリヴァイさんがだ)、リヴァイはその華奢な腰を落とそうとしてくる。ぎょっとしたのはエレンだ。 「待って、リヴァイさん! まだ早いですって!」
エレンは既に応戦態勢だが、リヴァイの準備がまだ出来ていない。
リヴァイは面倒臭げに眼を眇め、エレンを擦っていた手を自らの秘部に突っ込んだ。指を掻き回すとぐちり、とはしたない音がする。蜜壺を掻き回した手をエレンの顔の前で見せつけ、指を広げた。ぬらりと粘液が細い指を伝う。
「十分濡れているが?」
問題なかろうとリヴァイは事もなげに言う。エレンは女の性をまざまざと見せつけられて、頬を赤くした。エレンの身体を見て、エレンのペニスを触って、リヴァイは下半身を濡らしたというのか。その事実が、エレンはとても恥ずかしい。
「でも、解さないと駄目です。俺もゴムつけないと」
そうだ、この女この期に及んでゴムなしのセっクスをしようと進めてきた。もしものことがあって迷惑がかかるのは他でもないリヴァイだというのに。
リヴァイは舌打ちしてベッド脇に置かれていた避妊具を手に取った。
「俺がつけてやる。お前は解せ」
そう言って己の腰をエレンの手の届く位置にずり上げてくるので、エレンもおずおずと手を伸ばした。リヴァイと違って、異性の未知の領域に対する恐れがエレンにはある。しかしリヴァイ本人に自分で解せと言うのはマナー違反で、パートナー失格だ。
エレンは震える指を叱咤してリヴァイの割れ目を慎重になぞった。リヴァイは平然としている。身体に触れること、大事な部分を暴くことを、エレンのみが許されている。リヴァイのその信頼に応えるためにも、エレンは意を決してつぷりとそこへ己の指を潜り込ませた。
湿っていて、生温かい。
エレンはゆっくりと中を掻き混ぜた。リヴァイは鼻を鳴らした。「もどかしい」どうやら不満なようだった。エレンは言われるまま、もう一本指を突き入れた。優しく。壊さないように。エレンは慎重に愛撫を施していく。今になって自分の爪の長さが気がかりだった。この前短く切りそろえたばかりだが、間違っても引っ掻いてはいないだろうか。恐る恐る肉芽を摘まむと、リヴァイの背がしなった。愛液が溢れる。なるほど。
エレンは女の身体の神秘に感心していた。感動していたと言っても良い。人類に、いや生きとし生けるもの全てに伝わる、連綿と続く生命の神秘。愛の営み。その一介を垣間見た気がした。
セックスは気持ちの良いものだと、リヴァイは繰り返しエレンに教える。本当にお互いが気持ちよくなれるものなのだろうか。エレンは未だに半信半疑だ。しかしエレンはリヴァイを、リヴァイの言葉を信じているし、現にリヴァイはその快感に背を震わせた。あがる息遣いが次第に熱っぽくなっているのを、リヴァイは気が付けただろうか。リヴァイが気持ちいいのなら、それで良い。
それは真理のようにエレンの胸内に巣食った。
摘まんだりなぞったり開いたりを続けていると、リヴァイがその手を止めた。
「もっ、いいっ…」
息も絶え絶えなリヴァイは、顔が赤らみ目は潤んでいる。
エレンの指を引き抜かせると、雑な動作でエレンのペニスにゴムを被せた。そんないい加減につけて、リヴァイの中で外れたらどうしようとエレンは気がかりだったが、リヴァイがそれだけ事を急いでいるということである。一刻も早く繋がりたいのだと言わせている気がする。
「ゆっくり、ね。リヴァイさん。深呼吸して」
挿入の痛みを少しでも和らげたいと、エレンはリヴァイに声をかける。リヴァイはジロリとエレンを睨んで、しかし言われた通りゆっくりと腰を下ろしていく。跨られている以上、エレンはリヴァイのペースに身を委ねるしかない。エレンのペニスの先端が、リヴァイの入口に触れる。カウパー液と愛液が混じる。エレンもリヴァイも息を詰めた。
めり、と音がしたような錯覚。ゆっくり、しかし確実にリヴァイがエレンを飲み込んでいく。エレンはリヴァイの顔を食い入るように見つめた。いつもその眉間には深い皺が寄せられているが、今は心なしか苦しげに眉を寄せているようにも見える。
暗澹たる思い。やっぱりという気持ちが、腹の奥を冷たくする。
明らかに落ち込んだ様子のエレンを憎々しげに見つめて、リヴァイは舌打ちした。
「別に、てめぇの祖チンなんか大して痛くもねーよ」
男の矜持を著しく傷つけるリヴァイの言葉も、リヴァイなりの不器用な優しさであることをエレンは知っている。やっぱりやめましょうと言いかけた口を、リヴァイは許さないと言うように一気に腰を落とした。衝撃で漏れた悲鳴は果たしてエレンのものであったのか、リヴァイのものであったか。深く繋がった証に、鮮血がリヴァイの太ももを伝った。
ああ、処女膜が。
リヴァイさんの処女膜が。
エレンがリヴァイの処女を散らしてしまった。
青ざめるエレンに対して、リヴァイは酷く満足げだ。上機嫌なその雰囲気から、処女膜を破られた痛みは感じられない。
「これでお前は本当に俺のものだな」
嬉々として腰を揺らし始めるリヴァイに、エレンは為す術もない。
リヴァイはきゅうきゅうと締め付けてきて、エレンに貪欲に絡みついてくる。
まるでこれが欲しかったんだと言うように。決して離さないと言うように。その独占が、エレンには心地よかった。
「喘げよ、エレン」
望まれるままに声を出した。恥ずかしかったが、声を出すとリヴァイの胎内が嬉しそうに蠢くのだ。己の声すら愛撫なのだとエレンは知った。
明るい室内で結合部はよく見える。リヴァイが激しく腰を打ち付ける度、正体不明の液体が泡立った。
「あ! …あっ」
抜けるんじゃないかというほど腰を高く上げたリヴァイが、体重と重力に従って落ちてくる。身体同士がぶつかる大きい音。思わず零れ出た高い声。
「たまんねぇな、エレンよ」
本当にリヴァイに食べられているみたいだった。エレンのペニスがリヴァイの胎の中で咀嚼されている。まるで舐られ、歯を立てられているかのように、中は蠢いて、エレンをきつく締め付ける。
びくびくとペニスが脈打つ。どくどくと心臓が煩い。身体中の熱が一身にエレンの中心に集まって、解放を今か今かと待ち侘びている。
「リヴァイさん! いく! いっちゃう!」
堪らずエレンは泣き叫んだ。リヴァイが嬉しそうにエレンを見下ろしている。本当に、初めて目にするくらいリヴァイは上機嫌だ。
「イけよ、イっちまえ」
低く掠れた声が射精を促す。中の締め付けがきつい。上下前後に揺すられて、エレンは啜り泣いた。気持ちいい。すごく気持ちがいい。
ごり、と音がしてエレンの硬く猛ったペニスがリヴァイの中の一部を押し当てた。快感に耐えるようにぎゅっと瞑られたリヴァイの目元。
ああ、良いところなんだな。
自分も腰を動かして、リヴァイの良いところを集中的に擦ってやると、リヴァイはか細い悲鳴を漏らして首をのけぞらす。白い咽喉が眩しい。
直後、堪らない圧迫感。搾り取るように収縮する胎の中。
解放を待ち望んでいたエレンのペニスは、抑えることなく薄いゴムの中に自身の精を放った。
ぜえぜえと解放の余韻の中で怠くて息苦しいエレンに、リヴァイは覆いかぶさってくる。逃がさないように頬に手を当てられて、口付けが降ってくる。正直、呼吸が辛いので口を塞ぐことは遠慮していただきたいのだが、夢中で唇に吸い付いてくるリヴァイに、そんな酷いことは言えるはずもない。舌を差し込もうと一旦口を放されたところで、エレンは口を開いた。舌を差し出すためでなく、大切なことを聞きたいがためだ。
「あの、気持ちよかったですか?」
深い口付けを邪魔されたリヴァイは片眉を上げたが、それだけだった。
「ああ、最高だったぜ」
満足したように目を細めたリヴァイに、エレンも胸の内が暖かくなる。
良かった。本当に良かった。
エレンはしなだれかかっていたリヴァイの身体をそっと抱きしめた。嬉しげにリヴァイがじゃれついてくる。
幸福が身体中を満たしていく。
これが愛を分け与えるということか。
これが愛おしいということか。
これが本来あるべき、セックスなんだ。
「ただな、」
掠れた声にひくりとエレンの肩が震える。見上げたリヴァイの顔は獰猛な笑みを浮かべていた。先ほどまでの幸福感が急速に萎んでゆく。
「まだ足りねえな」
繋がったままのエレンのものをリヴァイは意図的に締め付けた。
「ゴムがお前のザーメンではち切れるくらい、ぶち犯してやる」
ご機嫌に宣言したリヴァイとは裏腹に、エレンは目の前が暗くなった。エレンは淡泊な方だ。一発抜けば身体はもう十分に満足している。何より初めての繋がりで、今までにない以上の倦怠感がエレンの身を包んでいた。正直もう寝たい。
否定の言葉を紡ぎかけた口内は、すぐにリヴァイの舌でもって制圧される。リヴァイの目が、舌が、手が、胎が、逃がさないと語っている。逃げられない、エレンは本能で察した。エレンは諦めたように目を閉じる。そしてそっと自分の舌をリヴァイに差し出し、口の中をあけ渡した。

そうして長い夜は更けてゆく。














2013/6/29
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