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リヴァイのデート大作戦





リヴァイさんが来ない。
エレンはスマートフォンで現在の時間を確認した。十四時三十分。待ち合わせの時間から三十分経過している。リヴァイ本人どころか着信もメールも来ることなく、エレンはただ待ち呆けていた。
今日はリヴァイとのデートの日だった。
先週の木曜日、突然エレンの家に来たいというリヴァイにはとても驚いたが、お泊り会からどこかリヴァイとの間がぎくしゃくしていて、その申し出にはほっとしていた。しかしその安堵も束の間で、帰宅したエレンを待っていたのはリンチだった。その時の痛みを思い出して背筋が震える。リヴァイと折り合いの良くない幼馴染のミカサが、湿布と包帯だらけのエレンを見て今にも駆け出して行きそうだったが「俺が悪いから」と言って何とか押し留めた。「俺が悪いから」と言って、実際自分が悪いのだろうけれど、リヴァイの怒りの理由も暴力の訳もエレンは未だに分からなかった。湿布も包帯もとれたのに、その答えだけが咽喉に小骨がつっかえたようにとれていない。
エロ本だ。
前後関係を考えて、あのエロ本が原因の一端を担っているはずだ。
余談だが、エレンには見るエロ本、動画に関してこだわりがない。思春期によくある、巨乳か貧乳かという問いに、エレンは今でも答えることが出来ない。巨乳でも貧乳でも何でも良いし、脚やら尻やらに倒錯的なフェティシズムを持ったこともない。エロ本でも何でも抜ければ良いのだという見解をエレンは抱いている。それを正直に伝えれば、友人から「お前って淡泊だな」と言われたが、エレンにしても全くその通りだと思う。
そして憧れの存在であり恋人でもあるリヴァイを、いわゆるオカズに使ったこともない。
エレンは強いリヴァイが好きだった。強くあろうと気高くあろうとする姿を見ているのが好きだった。本当に見ているだけで良かったのだ。エレンはリヴァイに求められたから差し出したに過ぎない。未だに自分があのリヴァイの恋人で良いのだろうかと疑問にすら思う。もっと他に、自分より他に、リヴァイと似合う人はいたはずだ。例えばエルヴィン先輩とか…。
エレンには組み敷かれたリヴァイを想像することが出来ない。想像することすら罪深いことだと思った。エレンはリヴァイの弱った姿など見たくない。押し倒され、蹂躙されるリヴァイなど考えるだに恐ろしいことだ。だからエレンは決してリヴァイを自慰の被害者にはしないし、キスより酷いことはしない。

(具合でも悪いのか、事故にでもあったのだろうか)
心配だ。エレンはやっとここでリヴァイに電話をかける決心をつけた。時刻は十四時四十二分である。電話をかけた一コールめでリヴァイは出た。まるで電話を待ち侘びていたかのようだった。
「なんだ?」
その声は酷く低い。不機嫌だなと思った。
電話をするのが遅かったせいかもしれない。それなら早く電話すれば良かった。
「リヴァイさんなかなか来ないから。今どうしているんですか?」
問いかけにリヴァイは重々しく答えた。
「エルヴィンと会ってる」
沈黙は一呼吸の間だけだった。
「良かったぁ」
心底安堵しているという声。
「良かった、だと?」
突き刺すようなリヴァイの声はエレンの意識に留まることはない。
「病気か、事故にでもあったのかと思いました。何事もないなら良かったです。あ、エルヴィン先輩との用事が終わったら、迎えに行きましょうか?」
胸のつっかえがとれて朗らかなエレンの声に、対してリヴァイは唸るように言った。
「今すぐ来い」

電車を乗り継いで迎えた先は、よくある全国チェーン店のコーヒーショップだ。そこにリヴァイとエルヴィンの姿を捕えて、エレンは駆け寄った。
エレンが来るなり立ち上がったリヴァイに対し、エルヴィンは席に座ったままだ。
「やあ、エレン」
「エルヴィン先輩、こんにちは」
「すまないね、リヴァイを借りて」
「いいえ、リヴァイさんが選んだことですから」
何故か生ぬるい、微妙な表情で見上げられて、その眼差しにエレンは首を傾げた。
憐憫? いや、何だろう。
しかし考える時間は与えられなかった。
「おい、行くぞ」
リヴァイが歩き出す。彼女は歩くのが早い。遅れないようにしながら、エレンはエルヴィンにさよならを告げた。

「何故何も言わない」
「何をですか?」
帰りの電車に揺られながらリヴァイに聞かれたが、エレンは何のことか分からなかったので正直に告げた。
エレンはリヴァイの選択を信じている。
常日頃エレンに「後悔しない方を選べ」と言うリヴァイはその言葉の通り、常に堂々と彼女の後悔しない道を選んでいる。エレンはその姿を好ましく思っているからこそ、彼女の判断に否を唱えるつもりはない。リヴァイはいつだって後悔しないように物事を選択している。そのリヴァイが今日エレンではなくエルヴィンを選んだなら、それがリヴァイの後悔しない選択だったのだ。だからエレンはそれに従う。それだけだ。
「お前は嫉妬しなかったのか?」
「嫉妬? しませんよそんなの」
エレンはリヴァイの判断を信じている。
しかしリヴァイはエレンの言葉に、打ちのめされたような顔をした。














2013/6/29
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