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エレン君のおうち





あいつ不能なんじゃねーの。
あの腹立たしいお泊り会の後、冷静になって考え付いたのがこれだった。しかしエレンは「できません」ではなく「しません」と言った。その一言がリヴァイに重くのしかかる。
告白したのは自分からで、「俺のものになれよ」というリヴァイの居丈高な物言いにエレンが頷いてくれたのが嬉しくて、そのままベロチューかましたのもリヴァイだった。
エレンからは差しのべられた掌と他愛のないキス。
それしかアクションを起こされていない。
リヴァイさんリヴァイさんと、親に対する雛鳥のようにリヴァイの後についてきて、屈託なく笑う。最初はウザったいだけだったそれが、次第に悪い気はしなくなって、好ましいものになっていった。移ろい易いその新緑の瞳を一身にリヴァイの元だけに繋ぎ止めたくて、先に根をあげたのはリヴァイだった。
手を繋いで、キスもして、ここまでとんとん拍子に事は進んだのに、それから一向にエレンは次の行動に移さない。
最初はエレンも若い男だ、すぐに辛抱堪らなくなって襲いかかってくるだろうと高を括っていた一か月間。
そういえばあいつ童貞だろうしな。ここは大人の余裕を見せつけて、あいつのペースで待ってやろうと腹を決めた一か月間。
ふざけんな、いつまで待たせるんだ襲っちまうぞと腹を立てた一か月間。
交際をスタートさせて三か月間。リヴァイは欲求不満だった。
きっと来るだろうと予想した三か月記念日も不発に終わり、絶対喰うと意気込んだお泊り会であのようなしっぺ返しをくらうなど、リヴァイは思ってもみなかった。
何とか今日、エレンの暮らしているぼろアパートに転がりこんでみたものの、具体的な計画もなく八方塞がりだ。
胸に去来するのは「何故?」という言葉ばかり。
何故自分に手を出してこないのだろう。
「俺は貴女とはセックスしません」とはどういうことなんだろう。
事実は一つだけだ。恋人にセックスを拒絶されたということだけ。
家主のいない部屋の中で、リヴァイは一人胡坐をかいて座っている。ここで膝を抱えているような乙女ではないのだ。

何故ここにエレンがいないのかというと、単にエレンに五限の授業が入っているからだった。三限で終わるリヴァイはエレンから鍵を預かって、正当にこの部屋へ入ってきた。
部屋は雑然としている。本来潔癖症の自分からしたら耐えられないものだが、部屋に染みついたエレンの匂いが自分でも融通のきかない潔癖症を抑えていた。しかし家主が帰ってくるにはまだ時間がある。少し片付けてやろうと腰をあげ、彼の部屋を物色したところでリヴァイは“それ”を見つけた。

「正座をしろ」
家へ帰るなり開口一番で告げられた言葉に、エレンは訳も分からないなりに従った。条件反射である。
部屋の鍵を預けた時は無表情だったその顔が、今は憤怒で歪んでいる。美人は怒っても美人だという。しかし剣呑な表情とあからさまな怒気からは、美しさに感動するよりもやはり恐ろしさが勝る。
「これは何だ?」
突きつけられたものを見て、エレンはぱちくりと瞬きした。見たままを言うしかない。 「エロ本、ですね」
一人暮らしだ。別に隠していた訳でもない。しかしものがものだけに開けっ広げに放置していた訳でもない。よく見つけたなと、エレンは呑気にも感心した。だって何に怒られているのか分からない。
「いつだ?」
「え?」
「これを使ったのは、いや、自慰をしたのはいつだ?」
プライベートなことだ。答えにくい質問だ。しかし問うているのはリヴァイだ。エレンは一瞬いつだったろうかと思案して、答えをすぐに口にした。
「五日前です」
俺 で 発 散 し ろ よ!
リヴァイの心の声は当然ながらエレンに届くことはなく。リヴァイは怒りのままにエレンの腹を蹴りつけた。そこからはもう、大暴力大会だった。














2013/6/29
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