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初めてのお泊り





三か月記念日から二週間経った金曜日夜。
何とエレンはリヴァイ宅へお泊りに来ていた。
とても急な展開である。水曜日にリヴァイから「泊まりに来い」と告げられた時は本当にびっくりしたものだが、実は今もびっくりしている。動転しながらも荷物からパジャマ(代わりのスウェット)を取り出したエレンは、背中に衝撃を感じて心臓が跳ねた。どうやら先に入った風呂から上がってきたらしい。むやみやたらに気配を殺して近づくのはこの人の悪い癖だ。
「甘えんぼさんですね」
小さく笑いながら後ろを振り返ったエレンは、今度こそ心臓を吐き出してしまうんじゃないかという程仰天した。
リヴァイがパンツ一枚で後ろから抱きついていたのである。
「リ、リヴァイさん?」
余りにも非現実的な出来事に言葉がどもる。
とても言いにくいことだが、女の子に言うにはとても失礼なことではあるが、
「あの、その、当たってます…」
薄い布越しに彼女の胸が当たっている。
リヴァイは背中に擦りつけていた顔をあげて、挑むように言った。
「当ててんだよ」
リヴァイさんったら、男らしい! そうじゃなくて。
そんなエロゲー的な展開はいらない! そうじゃなくて。
「早く服着てください!」
エレンは叫んだ。
しかし現実とは非道なもので、リヴァイははっきりと「何故?」と問うた。
「必要ねぇだろ」
そう言ってエレンの腹に回していた腕を解放し、エレンが何も言わないのを良いことに正面に回り込む。
リヴァイさんの小ぶりな胸がよく見えた。
(リヴァイさんって美乳なんだな)
現実逃避がてらどこか遠くで思うのを、しかしリヴァイが許すはずもなく。
「何を考えている?」
容赦のない言葉を真正面から浴びせかけられる。
幾度も経験したリヴァイの“躾”から、誤魔化すことも嘘偽りを述べることもエレンには出来ない。
「いや、綺麗だなと思って」
正直な感想だった。
「そうか」と安堵のような息を漏らして、リヴァイは暫し威圧的にエレンを見つめ「で?」と先を促した。「で」、また「で」である。この先何かを求められていることは分かるのに、肝心のその先が分からない。
しかしエレンに言えることはたった一つだ。
「そのままだと風邪をひくので、とにかく服を着てください」
エレンの真摯な言葉にリヴァイは目を見開き、そして長い溜息をついた。どうやらエレンの答えはお気に召さなかったらしい。徐にエレンの手首を掴むとそのまま、自分の乳房に触れるように手を導いた。驚きで肩を揺らすエレンを、冷たく一瞥して一言。
「揉め」
酷く高圧的な物言いにリヴァイの不機嫌の深さを知る。戸惑いも否も許されない。本能で知っているエレンは驚きも困惑も置き去りにして、とにかく手を動かした。
やわ、と触れた指先から暖かさと柔らかさが伝わってくる。暫く言われた通りに揉んでいたのだが、どうやらそれもリヴァイには不正解だったらしい。再度溜息。
どうすりゃ良いんだよ。エレンは涙目になった。しかしそのすぐ後涙も引っ込んだ。リヴァイの片方の手がエレンの股間を鷲掴んだからである。
「リヴァイさん!?」
非難の声は「勃ってねぇな」というリヴァイの一言でかき消された。そしてリヴァイの機嫌はまた一段と悪くなった。
ようやくエレンは思い至る。

求められているのだ。
セックスを。

条件反射的にあの日見たDVDの悲痛な声が頭に木霊し、泣き叫ぶ女とリヴァイの顔が重なる。
後先考えずにリヴァイから距離をとり、エレンはリヴァイにはっきりと告げた。
「俺、貴女とセックスするつもりはありません」
そして逃げるように風呂場に駆け込み、鍵を閉めた。
その場で蹲る。これは後で躾されるかもしれない。しかしセックスするくらいなら躾される方が断然良い。そう思うエレンがいた。
シャワーを浴び、幾分冷静さを取り戻して風呂場から出ると、リビングと廊下の電機は落とされていて真っ暗だった。唯一光の漏れているあの部屋が、恐らくリヴァイの寝室なのだろう。光に誘われるように扉を開け、「リヴァイさん?」と呼びかけてみるものの、ベッドに横たわった小さな身体は身動ぎ一つしない。寝てしまったのかなと少しほっとして、ソファでも借りようと踵を返したところで「来い」と声がかかった。リヴァイのベッドまで、足音を立てず歩み寄ると、リヴァイがそっと掛布団をあげてくれる。「入れ」と短く告げられて、エレンは同衾を許された。
大人しく布団に入ってリヴァイを正面から抱き込むように横になる。その体温に安堵しつつうとうとしていると、リヴァイからグスっと鼻をすする音が聞こえた。夢かもしれない。しかし泣かせてしまったのかもしれない。リヴァイが泣くところなどエレンは想像つかないが、リヴァイだって女の子だ。泣くことだってあるだろう。それが自分が原因だったらとても嫌だなと思いながら、エレンはリヴァイを抱える腕に力を込めてそのまま眠りに落ちていった。














2013/6/29
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