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俺のかわいい彼女リヴァイさん





エレン・イェーガーはセックスに恐怖心を抱いている。
理由は簡単。中学生の頃友人ジャンに半ば強引に見せられた人生初のエロDVDが、強姦、凌辱ものであったために、エレンの幼い心にトラウマを植え付けたからだ。
それ以来、エレンはセックスとは女の人にとって酷く苦痛なものとして認識されている。



時は移り変わって数年後、十月。エレンは大学一年生となり、学生生活を謳歌していた。そして今日は、エレンの大学の先輩である“リヴァイさん”と付き合って三か月目の記念日なのであった。
リヴァイとの出会いは四月の新歓コンパである。サークルの先輩である四年生のハンジが、同じく四年生であるリヴァイを指さして「すっげー暴力的でしょ? あれでも一応女の子なんだよ、どう思う?」と何気なく聞かれたのを、馬鹿正直に「リヴァイさんは可憐だと思います」と答えた。既にリヴァイは気に入らない新入生を二人蹴り倒していて、その余りにもな暴虐非道さにサークルメンバー全員が震えあがっていた時だった。降って湧いた「可憐である」発言に、当のリヴァイも目を丸くして固まっており、エレンの言葉はサークルメンバー中を、いやその飲み屋全体を、大ブリザードにぶち込んだのである。これが言わずと知れた「エレン・イェーガーの死に急ぎ伝説」の一つである。
それから三か月。リヴァイの後をついてまわったエレンは不思議なことにリヴァイの隣にいることを許され、リヴァイの隣に居座り続けてあっという間にまた三か月経った。

エレンはウキウキとリヴァイに連れられて彼女のマンションへ向かっていた。彼女の住んでいるところに行くのは初めてだった。リヴァイは自他共に認める潔癖症で、自分のパーソナルスペースにとても気を使う。聞けば彼女の自宅に足を踏み入れたことのある人物はいないと言う。エレンは彼女のパーソナルスペースに入ることを許された初めての人間なのだった。
これで心が浮足立たないはずがない。
エレンは彼女へのプレゼントが入っている鞄の持ち手をぎゅっと握った。
記念日にプレゼントは必須だろうという助言の下(何せエレンは初めてのお付き合いなので勝手が分からない)、リヴァイには携帯電話のチャームをプレゼントすることにした。リヴァイは今時の学生には珍しいガラケー保持者なのだ。武骨な黒いフォルムの携帯電話には、飾り紐の一つもついていない。恥ずかしがり屋で少々ツンデレの過ぎる彼女の性格(というのはエレンの言で、決して他者共通のものではない)を考慮して、可愛すぎず綺麗すぎないシンプルな飾り紐を。果たしてリヴァイは気に入ってくれるだろうか。別に目の前で捨てられたってそれがリヴァイの選択した行動なら咎めるつもりもないのだけれど、気に入ってくれるのならそれ以上のことはないなとエレンは思っている。
手も繋いで、キスも唇が触れ合うどうしのものを何度もして、告白されてベロチューされたことにはとても驚いたが、こうしてリヴァイの自宅にもお邪魔させてもらえている。付き合いは順調で、これ以上を望むつもりはエレンにはない。今が十分に満ち足りていて幸せなのだ。二人はセックスをしていない。

「これプレゼントです」
そう言って渡した携帯チャームをしげしげと見つめて、リヴァイは「ありがとな」とお礼を言った。それだけでエレンは、ふにゃふにゃと締りのない顔をしてしまう。
「で、」
「はい?」
「それだけか?」
エレンは不思議そうに眼を瞬かせた。しかし数瞬後には何か思い当ったのか「あ」と小さく声を漏らして彼女の元へ屈みこみ、ちゅっと可愛らしいキスを降らせた。
「好きです、リヴァイさん」
そう告白して笑ったのだが、リヴァイは数分微動だにせずエレンを見上げ続けた。
「?」
間違っていただろうか。初めての交際をするエレンには、リヴァイの正解が分からない。リヴァイは不満げに目を眇める。
「それだけか?」
リヴァイの求めるものが分からなくて、「他に?」とエレンは首を傾げた。そのエレンの傾いた頭を逆に押し返す勢いで、強烈なパンチがエレンの頬を襲った。衝撃でよろめいたエレンに目も向けず、リヴァイは無表情に渡されたチャームを携帯電話に取りつける。
何の説明もない暴力にエレンは目を白黒させたが、リヴァイは理由のない暴力を振るうことはない。エレンは知っている。何か自分には窺えない理由があったのだろうと自分を納得させて、リヴァイが携帯チャームを使ってくれる嬉しさに顔を綻ばせたのだった。
エレンの預かり知らぬ所でリヴァイが一つの決意をしたことなど、エレンは知る由もない。














2013/6/29
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