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「良いか?」
リヴァイの眦にはまだ涙の痕が残ったままだ。これでも大分落ち着いた。涙が自然と出てこなくなるのを待ってから、リヴァイは大事そうに指輪を取り出した。あの日エレンがリヴァイに投げつけた、エレンの指輪だ。
指輪は、所有の証だ。エレンがリヴァイのものに、リヴァイがエレンのものになる、その証。指輪を再び嵌めるということは、エレンがリヴァイの元へ帰ってくることの象徴だ。
だからリヴァイは聞く。本当に良いのかと。自分のものにしてしまって良いのかと。あんなに離れたくないと泣いたのに、最後には逃げ道を用意する、この人はどうしようもなく優しい。その瞳に秘められた不安を拭うように、エレンは告げる。
「良いですよ。貴女が嵌めてください。俺にください」
エレンが求める、リヴァイを。
リヴァイは泣きそうに顔を歪めた。震える指で、エレンの指に証を立てる。シルバーリングがきらりと光った。

「ところで、リヴァイさんは妊娠したいんですか?」
エレンの指に嵌った指輪を恍惚とした表情で眺めるリヴァイに、エレンは聞く。妊娠を望んでいるのか、その意志を確かめることはとても大事なことだ。エレンは同じ轍を何度も踏みたくない。
「別に、どっちでもいい。でも、お前のガキなら、かまわねぇ」
どっちでもいいとは、何とも微妙な答えである。
「じゃあ今すぐに子供が欲しいわけじゃないんですね」
「あぁ」
エレンは詰問口調にならざるをえない。
「じゃあ何で、あの時ゴムなしでセックスしたんですか」
やっぱり一時の快楽のため、最悪の予想がエレンを襲う。対してリヴァイは、どこか拗ねた様子だ。
「お前が言ったんだろう。俺が欲しいって」
あの時エレンは薬のせいで快楽に溺れていたが、記憶がないわけじゃない。言った。あの夜の乱れた自分を思い出すと無性に恥ずかしいが、確かにエレンはリヴァイが欲しいと言った。でも。
「でも、俺ちゃんとゴムしてほしいって言いましたよね」
リヴァイは気まずげに頬をかく。そんな仕草をしても、可愛いだけだ。
「嬉しくて、つい箍が外れた。お前が俺を求めたから」
そうしてリヴァイは、己の裡に巣食った不安を語る。その内容は、ただエレンに求められたかったのだと、要約するとそれだけだった。
リヴァイは欲張りであるとエレンは思う。
従順であることを痛いほど強いてきたのはリヴァイだ。そしてエレンは、リヴァイの望むままに従うことが、彼女への愛情を示すものだと信じてきた。セックスのルール、日常の義務、課せられたものに文句も言わずに。しかしそれだけでは満足しないとリヴァイは言う。受態的であれと言い聞かせたその口が、積極性を求めてくる。エレンの愛に、何て貪欲なのだろう。確かに過去、エレンは愛情についてリヴァイを疑り深くさせたが、そんなの関係なく、これが生来の彼女の気質なのではないだろうか。
恋人に惜しみない愛情を注ぐことは苦ではない。しかし彼女を満たすことは、少々骨が折れそうだった。
まあ仕方ないかなとも思う。それでも傍に居続けることは、正しくエレンのエゴに違いなかった。
「約束します」
エレンはリヴァイの目元に吸い付いた。彼女の涙は甘くなく、塩辛かった。
「貴女を愛し、貴女を求めます。いつでも、ずっと、いつまでも」
甘いはずがない。彼女はエレンの理想でも偶像でもない。生きた人間だ。
「だから貴女も、信じてください」
俺の愛を。

ちょっとした好奇心。それ以外の他意などなかった。
「ところで、」
腕の中のリヴァイに問いかける。リヴァイは心底安心しきったように、エレンの胸に体重を預けている。大概、エレンの心臓の音でも聞いていたのだろう。
「あの時俺が別れるって言ったらどうしてましたか」
もしくは指輪を嵌めることを良しとしなかったら。
リヴァイのことだから「離れたくない」「別れたくない」とぎゃーぎゃー泣き喚くんだろうな、とそう思ってた。
ふむ、と顎に手を当てて暫く考え込んだリヴァイはゆっくりと言った。
「まず、その目ん玉引っこ抜くだろ、」
「えっ」
「んで、その指ぶった切る」
「えっ」
突然始まった猟奇的な告白に、エレンは目を白黒させる。
エレンを見上げたリヴァイはにやりと笑っている。しかしその目は全く笑っていない。本気だ。
「俺以外を見る目も、俺以外から贈られた指輪をする指も、いらねぇだろ?」
「えっ」
エレンは二の句が継げない。
エレンを逃すつもりなどない。リヴァイのそんなワイルドな一面を、エレンは決して知りたくなかった。もう遅い。







彼女はヤンデレ属性です






2013/6/29