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ベッド脇に設置されているラックに置かれたミネラルウォーターのペットボトルを、エレンはうんざりした思いで見る。このペットボトルを置いた張本人は、これから交わす情事に思いを馳せてウキウキしていた。
リヴァイの性欲は異常だ。いや、セックスへの執着というのかもしれない。とにかく異常だ。
リヴァイはエレンの精液を一滴残らず搾り取りたいらしく、もう出ないと泣いて訴えてもその手を、口を、胎を止めてはくれない。精液と涙と汗で身体中の水分を出し尽くしたエレンは、ある日とうとう行為中に脱水症状を引き起こした。それ以来、リヴァイは枕元にミネラルウォーターを置くことを忘れない。たまに精力剤も一緒に置かれていることもある。出し尽くしても更に奪い取ろうというリヴァイの執念に、エレンは恐怖を感じる。何をそこまでするのか分からないエレンは、昔正直にリヴァイにそう聞いたことがある。「お前の精子一つ残さず俺のもんなんだよ」そう答えたリヴァイに病的な独占欲を感じとって、以来エレンはそのことについて深く考えないようにしている。
「お前、媚薬は知っているか?」
ベッドに乗り上げながら突然聞いたリヴァイに、エレンは「びやく」と鸚鵡返しにその言葉を口の中に転がした。
「えっと、性的興奮を高める薬ですよね」
エロ漫画や官能小説によく出てくる。エレンは知識としては知っているが、言葉にした以上のことは知らなかった。エロ漫画も官能小説も嗜まないエレンがその存在を知ったのも、専ら官能小説専門の友人アルミンに半ば強引に本を押し付けられたからである。律儀に全部読んでトイレに駆け込んだエレンだった。アルミンの名誉を訴えると、アルミンだって自分の性的嗜好を喜んでエレンに差し出したわけではない。彼なりにエレンの頑ななセックスに対する偏見を正させたいが故だった。そんなことエレンは知る由もないし、その効果がなかったことは実証済みだが、とにかくアルミンは当人が思う以上に友達思いなのだった。
「使ったことは?」
媚薬を、とリヴァイは聞きたいのだろう。「ありませんよ、そんなの」と言うエレンに「たりめーだ」と当然のようにリヴァイは鼻を鳴らす。
エレンの性体験の初めては、全てリヴァイが与えるべきだとリヴァイは思っている。初キスと初夢精、初自慰に立ち会えなかったのは、彼女にとって大きな痛手だ。
「媚薬は、いつも以上に感覚が敏感になって、気持ちよくて気持ちよくて仕方なくなるもんだと思っておけばいい」
「はぁ」
なんでだろう。とても嫌な予感がする。エレンは寒気が抑えられない。
「で、これだ」
リヴァイは小ぶりなポーチに入っていたものをエレンに見せた。ハートの小瓶は今、リヴァイの手中にある。
「これが…?」
不安げに見るエレンに、力強く頷く。
「媚薬だ」
フィクションの中でしか見たことのない実物を突然目の前に突き付けられて、エレンは理解が追いつかない。しかしリヴァイがエレンを待ってくれるはずもない。
「飲め」
このいかがわしい液体を、リヴァイは飲めと言う。ようやく思考が追いついてきて、エレンは嫌そうに顔を顰めた。
「やですよ。気持ちよくて堪らなくなるんでしょう」
今まで以上に気持ち良くなってはエレンの身が持たない。これ以上乱れることは避けたい。エレンは恋人に乳首とアナルを開発されてはいるが、羞恥心を持つ至って普通の男だ。そんなエレンを、しかしリヴァイは許さない。
「俺のことを愛していると言うのなら、飲め」
エレンは天を仰いだ。こんなのただの駄々っ子と同じだ。
しかしエレンには負い目がある。リヴァイがこんなにも自分の愛情に疑り深くなってしまった原因が。一緒に住んで、リヴァイの望む通りのセックスをして、リヴァイに全てをあけ渡しているのに、一向にリヴァイはエレンの愛を信じてくれない。交際当初、セックスを拒んでしまったのもその原因の大きな一つだが、エレンが嫉妬心を持たないというのも未だにリヴァイに愛を疑わせる要因なのであった。
愛が足りないと言うなら注ぐこと、求められるままに与えることはエレンの苦ではない。パートナーとして当然の義務であるし、何よりエレンはリヴァイを愛で満たしてやりたい欲求がある。だからリヴァイがこんなことを言うのは狡いと思う。こんなの、頷くしかないじゃないか。元よりリヴァイは、頷かせるしか考えていないのだろうけれど。
「飲めば、ちゃんと信じてくれますか」
リヴァイは無言で頷く。エレンは小瓶を手に取った。
こんなことどうってことない。この人に己の愛を信じてもらえるなら。エレンは何度も言い聞かせた。しかし未知のものを体内に取り入れる恐怖は晴れない。ままよ。エレンは震える唇に瓶の口を押し付けた。
「半分残せ」
リヴァイの言われる通りに二口ほど口に含む。ゆっくり嚥下した。思ったほど飲みにくくはない。少し、甘い。
エレンの咽喉仏が上下したことを確認したリヴァイが、小瓶を持ったエレンの手首を掴む。そのまま自らの口に引き寄せて残りを口にした。エレンが「あ」と言う間もなく、ごく、と音が鳴る。なるほど、これでおあいこだ。
「どうだ?」
唇を摺り寄せられる。
「ん、よく、分かんないです」
飲んだ早々に効果があるとは思えない。というか効果など一生ないと良い。
「俺は少し熱い。お前は?」
リヴァイの情熱的な視線に晒されて、開発途中の乳首が触れられてもいないのにチクリと痛んだ。言われてみれば身体も段々と火照ってきているような気がする。そんなまさかという思い。でも。

「正直に言え、エレン」
あるがままでいることは、エレンに求められたことだ。正直に、素直に、嘘偽りなく。
「すこし、あついです」
即効性のある薬なんだろうか。与えられる快楽を期待して、エレンの身体はうずうずと震えた。こんなにも浅ましくなるのは、あの液体のせいなのか。
「大丈夫だ、エレン。快感に脅えるな。気持ちいいの、好きだろ?」
耳元でリヴァイが囁く。その低い声が、エレンは好きだった。エレンは頷く。
Tシャツを自分の手で手繰りあげて、既に膨らんだ赤い果実をリヴァイの前に晒した。
「さわって、ください。リヴァイさん」
全部が全部薬のせいなのだとしたら、正しくそれは魔法の薬だ。

「あん! …あぁっ!」
乳首を舐められて、アナルに指を入れられている。彼女の細い指が出し入れされる度、嬌声があがる。前立腺を巧みに刺激されれば、こんなに気持ちの良いことがあっていいのだろうかっていうくらいの快感が身体中に走った。
「は、んっ…、ふっ…!」
いつもより呼吸がしづらい。いつもより興奮している。いつもより身体が疼く。いつもより…。いつもは何てことのないリヴァイの他愛ない愛撫も、今はその一つ一つがエレンには堪らない。触れられてもいないのにエレンのペニスは本人の意志と関係なく勃起し、健気に涙を零している。リヴァイが、まるでアイスキャンディでも舐めるようにエレンの赤く尖った乳首を舐めしゃぶる。これから彼女が氷菓を口にする度、今のこの舌の動きを思い出すことになるのだろうなと、エレンはぼんやり思った。
「気持ちいいだろ?」
リヴァイが意地悪気に尋ねてくる。
「素直に気持ちいいって言えば、もっと気持ちよくなる」
まるで大切な秘密を教えるかのように、リヴァイはそっと囁く。
「はいっ…! きもちいいです、リヴァイさん…! いいっ…!」
素直に口にすると、熱く震えるペニスに更に熱が籠った。こんなに熱くなってしまっては、リヴァイの中に入ったら火傷させてしまうんじゃないか。そんな馬鹿なことを思う。
「ふっ。言えよ、エレン。どれが良い? 今日はどのおもちゃでひぃひぃ言わされたい?」
ベッドサイドのラックに、リヴァイ曰くおもちゃ箱に、手を伸ばそうとする彼女をエレンはふやけた頭のまま本能に従って止めた。
無機質で冷たいおもちゃが、エレンは好きではない。
「リヴァイさん! リヴァイさんが良い…! リヴァイさんが、ほしいっ…!」
涙でけぶる視界で必死にリヴァイの姿を捉えて、エレンは訴える。リヴァイを求めることに必死なエレンは、リヴァイが息を呑んだことに気が付かない。
そう、エレンは気が付いていない。決して口にしてはいけないこと。決して求めてはいけないこと。それをエレンが言葉にしたということに。その未来を、エレンは想像することができただろうか。
エレンは勿論知らないだろう。エレンの上で、リヴァイが狂喜に身を震わせたことなど。心から笑うリヴァイの顔が、酷く残忍に歪んでいたことを。
その言葉はリヴァイの理性をブチ切った。リヴァイの獣を呼び覚ました。だから言ってはいけないことだったのだ。
エレンがリヴァイを求める。
リヴァイがエレンを求めることは日常茶飯事だ。しかしその逆が果たして二人にあっただろうか。
最初にその存在を求めたのはリヴァイからだった。口付けも、リヴァイから。セックスを求めたのも、リヴァイから。別れたくないと訴えたのはリヴァイで、離れるのが嫌だと言ってその身を手元に置いたのもリヴァイだった。いつもリヴァイばかりがエレンを求めている。対してエレンはリヴァイに何も求めない。キスをしろと言えばキスしてくれる。セックスをしたいと言えばセックスしてくれる。しかしエレンが自発的に動いたのは何回ある? 従順であることを望んだのはリヴァイだが、エレンはいつもリヴァイに従うばかりだ。ましてやエレンは、リヴァイがどこの豚野郎の手に渡ったとしても、嫉妬の一つもしないと言うのだ。俺は貴女を信じてますから、そう笑って。
これで不安に思わないはずがない。
リヴァイがエレンの愛に飢えるのは、自分が持つのと同じくらいの思いをエレンにも持ってほしいからだ。与えたものと同じくらい返されたい。リヴァイは自分の異常な愛情を自覚している。その上でリヴァイはエレンに望んでいる。エレンから異常なほどの愛が欲しい。リヴァイがエレンを求めるように、エレンからリヴァイを求められたい。
その願いの一部が、今叶えられたと言って良い。
リヴァイは歓喜に打ち震えた。快感が身体中を駆け巡っていく。濡れる。子宮が疼く。全身でエレンを求める。エレンが欲しい。エレンに与えたい。
リヴァイはうっとりと告げた。眇められた瞳にはもはや理性の光がない。リヴァイは本能のままに動く獣だった。エレンがそうした。
「良いぜ。くれてやる」
硬く反りあがったペニスに自分の秘部をあてがう。触れてもいない、慣らしてもいない蜜壺は十分に潤んでいる。大丈夫だろう、リヴァイは一人判断を下した。少しくらい痛くても構わない。早くエレンと一つに繋がりたかった。
「あっ! まってっ…、ゴム! ゴムするからぁ…!」
エレンの静止の声は、頭のぶっ飛んだリヴァイには届かない。
「だめ…! リヴァっ、…あぁ!」
一気に貫かせた。胎の中でペニスがビクンと脈打つ。酷い圧迫感に、リヴァイは満ち足りた気分で息を漏らした。リヴァイの下でエレンが「や、ぬいてっ…、ぬいて…!」と悲鳴をあげているが、リヴァイは気にしない。
初めて直に、エレンのものを受け入れた。
薬のせいか、ゴムをしていないエレンのペニスはいつもより大きく感じられた。どくんどくんと、血潮の流れまで伝わってくるような気がする。リヴァイは愛おしげにエレンを見つめる。泣きじゃくったエレンの顔。可愛い。リヴァイははしゃいで腰を振らした。激しく。
「ひっ! リヴァイさ、ゴム、なしっ、じゃ、やだぁ…!」
エレンのペニス! その熱が愛おしい。これは誰のものだ? 正真正銘、リヴァイのものだ。エレンが求め、リヴァイが与えた。そして手に入れた。エレンは何をそんなに脅えているのだ?
「だめっ…、でちゃ、リヴァイさん! ぬ、て…、ぬいてっ…!」
泣き叫ぶエレンの抵抗が激しい。しかし薬のせいで思うように動かせないその身体を、リヴァイは容易く捻じ伏せる。気分はロデオマシーンに乗っているかのようだった。
リヴァイは不思議そうに首を傾げる。
「エレンよ、言っただろう?」
お前の精子一つ残さず俺のものだ。
エレンは止めどなく涙を流した。ペニスは今やはち切れんばかりである。しかし解放することは許されない。誰が許さないか。リヴァイでなく、エレン本人が。エレンは耐えた。頭の中では出したいという思いで一杯だった。しかしここで踏みとどまらなくては。一体誰がリヴァイを守ってやれるというのだ。その妊娠の危険性から。
「おねが、ぬいて…! リヴァイさんっ、おねがい…!」
リヴァイは上機嫌のまま、更にペニスに絡みついてこようとする。今まで味わったことのない直接的な肌の温もりに、ぞくぞくと背筋が震える。だめだ。その一心で、エレンは手を動かした。自分の根元をきつく締め上げる。射精を無理やり堰き止めようとする動きに、驚いたのはリヴァイだ。呆れたように、エレンの戒めを解かせる。ぎゅっと掌を握られる。恋人繋ぎだ。
「出せよ。辛いんだろう?」
ゾッとするほど優しい声だった。
「やら…! ぬいてっ、ぬいて!」
リヴァイはしょうがないなと言うようだった。頑是ない我が子に言い聞かせる母親のような顔をして、淫蕩に腰を動かし始める。ついでと言わんばかりに開発中の乳首を捏ねくりまわした。
「ひぃ!」
乳首から電流が走ったような強い刺激。それが決定打となった。
イきたくなくて、拒絶するように首を振る。しかし身体は止まってくれない。
「やらぁ! あかちゃん! あかちゃんできちゃう…!」
エレンの言葉に、リヴァイは鼻で笑っただけだった。

もう何度リヴァイの胎の中で精を放ったのか、エレンには分からなかった。もしかしたらリヴァイは数えていたかもしれない。それももはや意味のないことだ。
リヴァイが理性を取り戻しその惨状に気が付いた頃にはもう、エレンは身動ぎ一つできず、ひゅーひゅーと息を漏らすだけだった。力なく投げ出された手足、涙の膜が張ったその目からは意志の光はなく、ぼんやりと宙を見ることなく見つめている。レイプされた後みたいだな、とリヴァイは思った。口元に垂れた涎を拭ってやっても、何の反応もない。
リヴァイは腹筋に覆われた自分の腹を見つめた。心なしかその腹は吐き尽くされた精で膨れている。
ここで初めてリヴァイは、恐らく人生で初の後悔をした。
エレンに中出しさせたことでは勿論ない。
自分が男に生まれなかったことに。
今までリヴァイは自分の性に疑問を持ったことも不便に思ったこともない。屈強な男どもに囲まれて絶体絶命、貞操の危機を感じた時でさえ、リヴァイは女であることを悔いたことはない。
しかし今、呆けたようにぐったりしているエレンを前にして、リヴァイは初めて女である自分の性を悔いた。自分じゃどうしようもないことだったが、とにかく男に生まれてこなかったことを後悔した。
自分もエレンに腹ボテさせたかった。
それだった。寧ろその思いだけだった。自分にペニスさえあれば、自分の種子をエレンの胎の中にぶちまけることも、エレンを孕ますことだってできたのに。
考えても仕方のないことだと分かっていても、考えざるをえない。リヴァイは暫く、エレンに跨ったままどうしたら自分にペニスが生えてくるのか物思いに耽るのであった。まだどこか頭の螺子がぶっ飛んでいるリヴァイである。







甘いはずがないのに






2013/6/29
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