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やがて来たる





「好みのタイプ?」
 アルバイトの情報誌を卓上に広げたエレンが、うろんげに目を瞬いた。ファミレスの一角で、飲み放題のソフトドリンクで粘っている最中だった。エレンは行儀悪くも頬杖をついて、ストローを噛んだり、たまにメロンソーダを啜ったりして退屈を紛らわせていた。なんのに気なしに他愛のない恋愛談義に話題が移った。そこに話の水を向けられたエレンは、卓上の薄い冊子に向けていたまなざしを上げて、吐き捨てたのだ。
「そんなのねぇよ」
 にべもない。だがエレンらしい答えだった。アルミンは奥歯とともに苦笑を噛みころす。
 まだ冬の寒さの残る、三月初旬のことで、長く苦しい受験戦争に終止符を打ったアルミンたちは、最後の高校生活を惜しむべくファミレスでたむろしていた。
 ブレザーの下にパーカーを着こんだエレンは、袖口からだらしなく灰色の生地をはみ出して、その先に指先が覗いている。存外寒がりな友人の、綺麗に切りそろえられた爪の先が、とんとんと紙面を叩いた。
「それより、大学が始まるまで暇だな。バイトでもしようと思うんだが、アルミンはどれがいいと思う?」
 道路側二階席の窓際。曇り空が見える向こうで、木々の蕾は固く閉じている。まだ春は遠かった。



「好みのタイプ?」
 丸卓の上で紙のカップからティーバッグを引き上げたリヴァイは、正面に座るハンジには目もくれず、色と香りのついた湯を見て口を曲げた。どうやら、彼が注文した紅茶はその御眼鏡にかなうものではなかったらしい。飲むデザートを売りにする全国チェーンのコーヒー専門店で、ティーバッグ以上の期待を抱く方がどうかしているとハンジは思う。
「んなもんあるか」
 一刀両断だ。それもご丁寧に舌打ちまでつけて。常人ならよっぽど意に沿わぬ話題だったのかと気まずくなるところだが、どっこいこれが彼の並みの機嫌なのだとハンジは知っている。鋭く打たれた舌の根を、ハンジは軽く聞き流して山盛りのホイップクリームが乗っかったフラペチーノをストローで吸った。ズゾゾゾゾゾ。神経質な男の耳は、その音すら気に障るのか、眉間には深く皺が刻まれている。ハンジは見ないフリをした。
「それより、てめえの行きたいとこ行きたいとこ引っ張りまわしやがって。俺はてめえのお守りじゃねぇんだぞ。モブリットどこ行った」
「モブリットはお使い。私はどうしてもこの期間限定の桜フラペチーノ飲みたくてさー!まだ桜も咲いてないのに、季節を先取ってるよねー!」
「生クリーム食ってんだか、砂糖飲んでんのかわかったもんじゃねぇな」
 薄いピンク色をしたクリームは色鮮やかだが、外はまだ灰色に濁っている。冬は居残り、春が来るのはまだ先のことだろう。

















2016/4/13
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