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19歳と23歳





エレンの服をたくし上げると、エレンの目の色が変わった。
どんなに常識から外れていても、その意味するところは正確に分かるらしい。
リヴァイは咽喉の奥で笑う。
「知ってるか? 俺が初めて夢精したのは、夢に裸のてめぇが出たからだ。俺が初めて自分のもんを抜いた時は、夏で汗に濡れたお前を見て欲情したからだ」
うなじに汗で白いシャツが張り付くさまに、情欲を誘われたのだと。掠れた声でリヴァイが言う。
知らない。リヴァイの初めてなど知らない。
エレンは首を振った。リヴァイの暴挙を止めようと手首を掴んだ手は、逆にリヴァイに掴まれてしまっている。頭上で戒められ、手が出せないエレンをせせら笑うように、残った片手がエレンの剥き出しの乳首に触れる。
「やめろ!」
「やめると思うか?」
やめられると思うか。
リヴァイは低く呟く。
やめられなくても、やめなくては。兄弟同士で、こんなこと。止めさせなくてはならない。
エレンはがむしゃらに手を振るが、リヴァイの片手はびくともしない。
「女に触れたことは? 女に乳首を触られたことは流石にねぇだろ」
リヴァイの手が、いやらしい手つきでエレンの乳首を捏ねくりまわす。
過去、エレンに付き合っていた女性がいたことは事実だ。セックスしたことも。
しかしそれがリヴァイに何の関係があるというのか。そもそもどうしてリヴァイはエレンにセックスするような恋人がいたことを確かめたいのだ。高校時代に彼女を家に招いたことはない。大学時代、確かにこの部屋で事に及んだことはあるけれど、そんなことリヴァイは知らないはずだ。なら、この、確かめるような手つきは、何だ。
まるで新しいおもちゃを与えられた子どものように、楽しそうに、執拗に、乳首を抓られたり転がしたりされて、エレンの頬に熱が溜まる。
そんな、女の子相手にするようなことをされたら。
「ほら、たってきたぞ。女みてぇにな」
仕上げにぴんと先端を弾かれて、エレンの咽喉が反り返る。
弟といやらしいことをしているという意識以前に、エレンは今女にされているのだ。自覚すると、途端に恥ずかしくなる。
「やめ、ろっ、て…!」
再度繰り返される言葉にも、リヴァイは聞く耳を持たない。寧ろそれしか言えないのかと、眉を顰めて見せた。
「おかしいだろ…! 兄弟でっ、こんなこと…!」
だからやめろと訴えるのに、リヴァイに容赦はない。
たち上がった乳首をリヴァイが口内に招き入れた。生ぬるい感覚に、エレンの口から「ひゃ、」と声が漏れる。当然己の乳首を舐められた経験などないエレンにとっては、未知の愛撫に背筋が震える。リヴァイが時たまに、甘噛みするようにその白い歯を立てるのが堪らない。
「やだぁ、」
次第に自分の声が甘く高く湿っぽくなっていくのを、エレンは気付かない。しかしエレンの変化に目ざといリヴァイは、その変わりように吐息を漏らすように笑って、徐に片手をエレンのスラックスへと導いていく。片手で器用にベルトを外し、緩ませた衣服の内へと、自らの手を滑り込ませた。
「あっ!」
下着すらエレンを守る防御壁の役割を果たさず、簡単にリヴァイの侵入を許した。直接ペニスに触れた男の手の温もりに、エレンは驚きで声をあげる。いつの間に。
「や、」
問答無用でペニスを強く握り、躊躇いも見せず扱きあげる。
潔癖症のリヴァイが他人の男の一物に触れるなど、想像もできなかったエレンは身体を強張らせる。
リヴァイに言わせれば、一緒に狭い浴槽に浸かって、一緒に身を寄せ合うようにして眠っていたのに、何を今更、だ。寧ろずっとこうしてエレンに触れたかった。エレン限定で厄介な性分はかなぐり捨てられる。
リヴァイがエレンの部屋に移り住んでから、早数か月。
リヴァイ自身の簡易ベッドは未だ使われた形跡がない。当然のように、リヴァイはエレンのベッドで寝ているからだ。
プライベート空間を侵されたエレンに、マスターベーションをする時間などなかった。
現在交際中の女性がいるわけでもない。過去にいた女性たちは土日にデートもできないエレンを見限って、去ってしまっていた。恋人がいたとしてもリヴァイのいる家に連れ込むことなど出来ないエレンは、随分ご無沙汰なのだ。
久しぶりに与えられた快楽に、身体が喜ぶように震える。
熱が溜まるのはあっという間だ。
だがそれはエレンの望んだことではない。
弟の手で。
弟の手なのに。
「やだ! やだ、リヴァイ!」
身を捩っても、急所を握られていてはエレンに逃げ場などない。
言葉で訴えるしかないのに、リヴァイは聞いてくれない。
このままではリヴァイの手で、粗相をしてしまう。
「お願い! 何でも言うこと聞くからっ、はなせ…!」
男の、兄のプライドなど、今この場では何の助けにもならない。
悟ったエレンは無我夢中で叫んでいた。言葉の意味など知らない。
「ほぅ」
エレンの裏筋を擦っていた手が、止まる。脅威が去ったことにほっとできないのは、リヴァイの漏らした吐息が恐ろしいからだ。
リヴァイの眼光が人知れずキラリと光る。
エレンはリヴァイを恐る恐る見上げた。合わさる視線。エレンの瞳は戸惑いに揺れて、上等なエメラルドの宝石のように艶めいていた。蠱惑的なその色に、リヴァイは興奮して舌なめずりする。エレンがこんな男臭いリヴァイの顔を見たのは初めてだった。ずっとリヴァイはエレンにとって、我が儘でも可愛い弟だったのだ。
「なら誓え。俺とずっと一緒にいることを」
一時を取るために、永遠を捧げろと。
エレンは頭がくらくらしてきた。どっちを取ったって、エレンの本意でないことは変わらない。先ほどから、もしかしたらずっと以前から、エレンは追いつめられているのだ。
弟の言う通りになどできない。どちらを選んだって後悔しかない。不毛な関係を築けば、二人に待っているのは不幸だけだとエレンは信じている。
なら答えるべき言葉と、やるべきことは決まっている。
「誓う! 誓うから、はなせっ…!」
油断したリヴァイがその手を放した瞬間、この場から逃げ出す。
リヴァイが追ってくるのなら、殴ってでも蹴ってでも良い。乱れた着衣にも構わずこの部屋から出て行って、もう二度とリヴァイとは会わない。血の繋がった家族と絶縁状態になったとしても、それで家族を同性愛、近親相姦の誹りから救うことができるのなら、エレンは躊躇わない。エレンの決意は固かった。
なのに。
「耳が赤いな」
ぬるり、と。リヴァイの濡れた手がエレンの耳を撫でる。
もう片方の手が、エレンの拘束を緩めることはない。
エレンの考えていることなど、リヴァイにはお見通しだ。
「何でもっていうのは嘘か? エレンよ」
退路が、ない。リヴァイの存在によって断たれている。リヴァイはこの行為をやめるつもりもないし、エレンが逃げることも許さない。
リヴァイの手が再び動き出した。嘘を吐いたエレンを責めるかのように、鈴口に爪を立てられて、エレンは悲鳴をあげた。ぐちぐちと音が聞こえてきそうだった。食事中に無粋な音はいらないからと、TVすらつけていないことを後悔してももう遅い。耐えることはできず声は出ていき、狭い室内に響いた。
その声に気分を良くしたのか、リヴァイの手は大胆なものになっていく。
「あぁっ、ひっ」
熱が追い込まれて、今や決壊寸前だ。弟の手でイきたくないという、エレンの自制の意識のみが、射精を堰き止めていた。
「リヴァ、リヴァイ…! リヴァイ!」
静止の声がうまく紡げず、ただリヴァイの名を呼んだ。
それがエレンの意に反して、逆にリヴァイを求めているかのようだった。
エレンは無意識で男心を擽ることができる。エレンの痴態に、リヴァイの咽喉がごくりと鳴る。全身をピンク色に染めて、びくびくと震える身体は扇情的で、リヴァイの男の欲を存分に呷った。
「イきたければ、イけば良い」
我慢することなんてない。リヴァイにとっては。
「やだ、イきたくないっ、いきたく、…ひゃあぁぁ!」
イきたくないとごねるエレンの乳首を噛んでやると、エレンは呆気なく達した。
乳首など今日初めて触られたというのに、エレンの身体は随分淫乱だ。元々敏感な身体なのだろう。
解放の余韻に浸るエレンの隙を見逃さず、リヴァイは頑なに緩めなかった手を放してエレンのスラックスをパンツごと剥ぎ取る。久しぶりの射精、それも他人の手によって、で奪われた体力に、エレンは今この時が逃げ出す唯一のチャンスだったというのに、その重い身体を動かすことができない。エレンは呆然自失のまま、中々意識が帰ってこないのだ。
エレンの荒れた息が整うのを待たず、リヴァイは手に吐き散らされた精を塗りこむようにしてエレンの秘部に触れる。
「ひぅ」
信じられないところをまさぐられて、エレンから可愛らしい声が漏れる。投げ出された足を開脚させて、誰の目にも触れたことのない場所を露わにした。
遠い意識の中でも恥ずかしさは感じるのか、エレンの太ももに朱が混じる。
宥めるようにハリのある太ももに手を這わせながら、エレンの入口の縁をなぞる。お伺いをたてるように爪先を食い込ませると、そこはひくひくと震えた。
慎重に指をめり込ませる。
「ふっ…、やぁ…、」
異物感にエレンが嫌々と首を振る。エレンの言葉遣いが幼い。リヴァイの仕打ちに、エレンのキャパシティはとっくにオーバーしてしまったようだ。これ幸いと、リヴァイは傍若無人にぐりぐりとエレンの内部を押す。その度にぐにぐにと形が変わった。エレンの胎の中は熱い。
早くエレンの中に入りたかった。弟がずっとエレンにこういうことをしたいと思っていただなんて、きっとエレンには分からなかっただろう。リヴァイは昔から、必要があれば本心を隠すのがうまかった。
ゆっくりと二本目を追加する。「ふぁ、」エレンは夢見るように声を漏らした。一本目ほどの不快感は覚えなかったようだ。
中を押し広げるように指を開閉する。エレンの精液を塗り付けてやれば、狭い道はぬるぬると滑った。
もう少し奥、と指を伸ばしたところに、しこりがあった。
ぐりと押してやると、一際高い声でエレンが鳴いた。
「ここか?」
ここがどこだか、エレンは分かっていない。リヴァイも知識のみで知っているだけだった。前立腺。男同士でも気持ちよくなるところ。立て続けにそのポイントを触ってやれば、萎えたままだったエレンのペニスが、再び頭を擡げだした。
電流が走ったような気持ちよさがエレンを襲う。堪らずエレンは咽び泣いた。
「うぅ…、あっ、あっ」
放心したエレンが否定の言葉を出せないことを良いことに、リヴァイは指の本数を増やす。リヴァイの節くれだった指が三本、エレンの胎内に収まった。
もう少し解してやれば、そこは男を受け入れる女として準備完了だ。
お預けを食らわされていたリヴァイのペニスが期待に脈打つ。エレンのアナルを柔らかくしながら、リヴァイは己の腰をエレンの太ももに擦りつけた。服越しでも分かるほど、硬く反り立っている。
「な、に…?」
同じものを持っているというのに、その硬さに驚いて、エレンは目を瞬いた。
ゆっくり意識が浮上してくる。が、もう遅い。
「分かるか?」
リヴァイの腰がいやらしい動きをする。示唆されるその未来に、エレンの顔は段々青ざめていく。
「お前を前にすれば、俺は簡単に欲情できる」
同性相手に、血を分けた兄に。
エレンには信じられないことだったが、太ももに押し付けられた熱にその事実を肯定される。
涙がエレンのこめかみを伝い落ちていく。
リヴァイを愚かな男にしたのは、弟を可愛がっていたエレンだというのか。
家族愛はいつから性愛へとその形を歪めてしまったのか。
「やめ、」
戦慄く唇から、情けない声が漏れる。
リヴァイの考えていることなど分からなかったが、リヴァイは胎内で蠢かせていた指を止めた。なんの合図もなく、ずるりと指が引き抜かれる。排泄を強制されたような感覚に、エレンの肌が粟立った。
唐突に指が引き抜かれた訳をエレンは知らなかった。だが、すぐに分からされる。熱く濡れた肉塊が、エレンの縁に宛がわれたのだ。
エレンの身体からどっと冷や汗が噴き出す。
ここまでされて“その後”が分からないほど無知ではない。
「リヴァイ!」
エレンの悲鳴。エレンは声しか持たない。
その両手は既に解放されていたが、自由を掴むことはできないのだ。既に何もかもが、手遅れだ。
エレンを見下ろす男は、
「エレン、最高の誕生日プレゼントだ。ありがとう」
もはやエレンの弟ではなく、欲を持った一人の男だった。
「ひぐっ!」
熱された杭を打ち込まれたようだった。容赦なくリヴァイの肉棒がエレンの中に割り入ってくる。めりめりと音がしそうなくらい、挿入はきつかった。エレンの暴れる身体を押さえつけて、リヴァイが腰を進めていく。リヴァイだって辛いのだろう、その額には汗が滲んでいた。
「ひっ! ひっ…!」
呼吸がうまく繋げない。溺れたように息がしづらい。
エレンに無体を強いる男の手は、優しく労わるようにエレンの腹を撫でた。この中に、男の肉が入っているのだ。
「や、あぁっ…!」
びくびくと震える血管のひとつですら、エレンに伝わってくるようだった。熱い血潮の流れが、エレンの胎内を愛撫する。
悠久にも思えた挿入は終わりを迎え、男の陰毛がエレンを擽った。全部入ってしまったのだ。
涙は熱い飛沫だった。涙すら熱を宿しているのだから、エレンの身体は胎を中心に灼熱に悶えていた。
「ふっ、うぅ」
エレンは嗚咽した。みっともなく泣きしきった。
目元を擦る手を、リヴァイが止めさせる。「擦るな」と。
エレンにここまで酷い仕打ちをしておいて、泣きじゃくるエレンがその涙を手で受けることも許してくれない。
「リヴァイぃ…!」
その名前は確かに目の前の男のもので、エレンの弟のものだったはずなのに。
どうしてエレンは、その男に犯されているのか。
「ごめ、さなっ、ゆるし…、ひぅ、ぬいて…」
エレンは男の楔で穿たれて、責められている。
エレンの謝罪に、男は首を傾げる。
「それは何の謝罪だ? 嘘を吐いたことか、俺を一人にしたことか?」
答える言葉を、エレンは持っていなかった。
エレンの反応を暫く待っていたリヴァイだったが、エレンがただ泣くばかりなので、その腰を動かし始めた。挿入して終わりなのではない。セックスは始まったばかりなのだ。
「ひゃっ、あんっ、あぁ…!」
揺さぶられるままに、エレンの身体は跳ねる。
夢想していたものよりも、エレンの反応はずっと良い。エレンの感度の良さに感動しながら、リヴァイの頭の中ではもっとエレンを乱れさせることで一杯だった。先ほど指でなぞっていた部分―――前立腺―――を先端で押し上げるように抉る。
「あぁ!」
感極まったようなエレンの声。リヴァイの侵入で一時萎えていたエレンのペニスが、再び力を取り戻していく。
流石に今の状況のまま達することは難しいだろうから、エレンの射精を手淫で手伝う。最初から多くをリヴァイは望んでいない。ドライオーガズムもところてんも、次の機会がある。
今は一緒に気持ちよくなれれば良い。
ペニスで、アナルで、強い快楽を与えられて、エレンは咽び泣く。
限界はエレンにも、リヴァイにも近かった。
「やらぁ、いきたくない…! いきたくない!」
リヴァイのペニスを胎内に入れて射精してしまえば、これはもう立派なセックスだ。
乳首に触れられただけなら、手淫でイかされただけなら、アナルに指を、ペニスを入れられただけなら、まだ辛うじて未遂だった。
でもイってしまったら。この行為に快楽を感じている何よりの証拠を見せてしまったら、もう言い逃れできない。
弟とセックスして、あまつさえ気持ちよくなってしまったことを。
怖い。
こわい。
「エレン、覚悟を決めろ。一緒に気持ち良くなれば、怖くない」
この身まで落ちてこいと。
一緒に生きていくことを認めろと。
エレンは首を振った。
リヴァイのしていることは、人道に悖る。
その言葉は身勝手で、エレンの心を傷つける。
でも。
「あぁっ!」
エレンは耐えきれず白濁した精を飛び散らせる。エレンとほぼ同時に、リヴァイも胎の中に熱い飛沫を迸らせた。
「あぁっ…」
どんなに酷いことをされようとも、エレンはリヴァイを憎むことができない。
リヴァイはエレンのたった一人の、血の繋がった弟なのだから。














2013/7/4
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