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リヴァイさん、ビールジョッキを買うの巻





 新居の鍵を渡したあとに、ふたりのことはふたりで決めるべきでしょうが! としこたま怒られたのも今となっては良い思い出になっている。エレンはプリプリと切れ長の猫目を普段の二割増しで吊り上げていたが、それも可愛かったのでリヴァイとしては何の不満もない。それに、鍵はちゃんと受け取ってくれたのだし。確かにふたりの将来のことを独断ですべて決定してしまったことは悪いと思っているのだ。しかし……、去年の殺人的なスケジュールとエレンとの時間の取れなさ、すれ違いの頻繁さを鑑みて、ふたり一緒になどと悠長なことを言っていれば、きっと今もまだ新居を決めることすらできていなかっただろう。
 エレンの研修は一段落つき、不慣れさと緊張は払拭されだいぶ先輩上司からも見込まれているようだ。リヴァイもそこそこ仕事が落ち着いてきた。とはいえ日々の忙しさはそこまで変わらない。それでも毎日を充実して過ごせているのは、やはりエレンとの同棲を始めたことで、一日の始まりと終わり、それに休日には必ずスキンシップが取れるようになったことが大きいだろう。エレンは俺の癒しなのである。ワンマンだ亭主関白だ(お前に妻の自覚があるのか)と罵られても、同棲を強行したのは成功だったと確信している。
 時は六月。梅雨が終わり初夏である。リヴァイはビールジョッキを買いにきていた。特にビールに対して強いこだわりがあるわけではない……というより、リヴァイ個人はあまりビールを得意としていない。にも関わらずこうしてジョッキを選んでいるのは、恋人であるエレンがビールを好んで飲んでいるからだ。そろそろビールの美味しい季節。新居にふたつひと揃えのティーカップがあるのだから、ビールジョッキもふたつ同じものを買うべきだろう。リヴァイはこうした、新婚らしいこと″をするのを存外気に入っていた。マグカップもお互いのイニシャルのついた色違いで、肌寒さの残る夜に、エレンが『L』の印字された黄色いマグカップでホットワインを飲んでいる姿を見るのは、リヴァイの胸にも熱い思いを宿らせるのだった。リヴァイは朝のコーヒーを飲むときに使うのは『E』のついた緑のマグカップで、それを見てくふくふと締まりなく笑うエレンをそっと窺い見るのも好きな時間だ。直視するとすぐにまじめな顔をするものだから、シャイな年下の恋人とは可愛いものだ。そう、なので、リヴァイとしては汗をかきながら帰宅したエレンが、ビールジョッキでごくごくとうまそうにビールを飲む瞬間も楽しみにしているのだ。そのためのビールジョッキ。できるなら大きいものが良い。たくさん飲めばそれだけいっぱい『出る』だろうし……。ビールとは、ガブガブ飲むものなんだろう。ガブガブ飲んでジャージャー出す。最高じゃねぇか。
「特大一択だな」
 しげしげと陳列棚を眺めていたリヴァイは、高さ十五センチもありそうな大きなジョッキをふたつ手に持った。そこへ、エレンがひょっこりと顔を出す。
「リヴァイさん、決まりました?」
「あぁ。これにする」
「またおっきいの。リヴァイさん、コップもマグカップも大容量好きですよね。おかわりするたびに立ち上がる面倒は減りますけど」
「バカ野郎、いっぱい飲め」
 そう言うとエレンの目が、「あぁ……」と言いたげにすぅっと細まるので、大方リヴァイの考えていることもお見通しなのだろう。まあそりゃあな。
「で、そっちは決まったのか?」
「ええ、麦茶作る用の容器ですね。中まで洗えるように、大きいものにしようかと」
「あぁ、でっかいやつで良い。夏場は熱中症が怖いからな。いっぱい水分取れよ」
 リヴァイさんが心配性なのも相変わらずですね。なんて苦笑うエレンだが、きっとそれだけじゃないことも気付いているだろう。昔は鈍い、鈍感だと思っていたエレンも、随分察しが良くなったものだ。体で覚えこんできたのだから、当然と言えば当然だが。
「リヴァイさん?」
「……あぁ。食材買ったら帰るか」
 はい、と頷くエレンは今ではもう立派な大人の男なのに、これを赤ん坊のころから知っているのだから感慨深い。

 お互い「ただいま」と「おかえり」を済ませると、エレンは慌ただしげにリビングへ向かう。荷物を置いて戻ってくれば、洗面台で入念に手洗いうがいをする。
「ビール、行く前に冷やしといて正解だったな」
 後ろで順番を待ちつつ零すと、エレンは快活そうに頷いた。鏡越しに目が合う。
「お昼過ぎになると汗ばむ暑さですもんね! もうすぐ夏かぁ」
 うっとりと目を細めるエレンは、どんなに忙しくても夏になると海に行くので、今年もその計画について思いを馳せているのかもしれない。去年もふたりで行こうと話していたが、殺人的スケジュールにリヴァイは脱落。仕事の彼を置いてエレンがひとりで海を満喫した。……べつに、根に持っているわけじゃない。リヴァイが行けなくなったからといって、それで毎年の彼の楽しみを奪うつもりは毛頭ない。エレンなのだ。行きたいところがあればしがらみもなにも気にせず飛び出していく。ただやはり、恋人として些末というには余りある寂しさを抱いたのだ、とはくだらない矜持が邪魔をして言えないだけだ。
「うがい、終わったら代われよ」
「はぁい」
 間延びした返事をするエレンは、今年の夏はどうするつもりなのだろうか。
 手洗いうがいを済ませ、食材は冷蔵庫へ、買った食器類はいっかい洗って食器棚へ。簡単に部屋を掃除して、それでもまだ夕日が沈むには早い時間だ。
「エレン、さっそく使ってみるか」
 食器棚に仲間入りしたばかりの特大ジョッキをふたつ持つ。心得ましたとばかりにエレンは冷蔵庫からビールを一本抜き取った。
 買ってきたばかりのソーセージを焼く俺の隣で、エレンがカマンベールチーズにベーコンを巻いている。チーズならワインじゃねぇのかと呆れる俺に、エスエヌエスで回ってきたのを見てから食ってみたかったんですよねとエレンは朗らかに言い、買い物カゴにカマンベールチーズを紛れ込ませた。結果、実に肉々しいつまみのラインナップだ。……夕食に野菜炒めでも作れば良いだろう。俺の胃も、まだそこまで老け込んじゃいないのだし。リヴァイさん次フライパン貸してくださいねとワクワクした声で笑うエレンにはなんてことのない軽食だろう。若いからな。
 乾杯のあとにエレンはビールを並々注がれたジョッキを飲み干し、良い飲みっぷりだとおかわりをいれてやる。チーズのベーコン巻もうまいうまいと食べては飲み、ソーセージにかぶりついては飲んでいるエレンを見ていると、リヴァイも楽しくなってくる。
「ベーコンはカリカリ、カマンベールはとろとろで、ソーセージはぷちっじゅわぁです!」
 お粗末な食レポだなと忍び笑いながら、エレンの杯が空になっては、せっせとビールを注いでやった。やがて……。
「んっ……。リヴァイさん、ちょっと席を外しますね」
 尿意を催したのだろうエレンが、立ち上がる。この機を見逃す俺ではない。むんずと腕を掴むと、隣のソファに逆戻りさせた。
「ちょっと! リヴァイさん、嫌ですよ。俺ここじゃ漏らしませんからね!」
 このソファ買ったばっかりでしょ! 酔いも回って赤ら顔のエレンがきつく睨む。
「大丈夫だ。汚しゃしねぇよ」
 俺はエレンの前で自分の分のビールを一気に飲み干すと、空になったジョッキをエレンの前で掲げた。
「こん中にしろ」
 一瞬の間を置いて、エレンが瞬きした。長い睫毛が涙袋の縁にあたり、ぱちんと音が鳴って光が閃いたようにもリヴァイには見えた。静寂。衝撃。拒絶。のちのエレンの様子と言えばまさにこれだろう。
「ハアアアアアァァァァ!?」
 ふざけんな! とエレンは怒鳴った。もはや顔中真っ赤なのが酔っているのか、羞恥なのか、激怒しているせいなのかも分からん。
「な、あんた! ふざけんな!」
「ふざけてねぇよ。いちど飲んでみたかった」
 エレンは言葉もなく激昂して見せた。器用な奴である。その熱い掌がぐいぐいとリヴァイの顔をもみくちゃに押す。近づくなということか。
「エレン。飲みたい。お前のションベン」
 力に負けじとエレンにのしかかる。その耳元に熱い息を吹きかけると、エレンは盛大に体を震わせた。
「なあ、トイレで下水に流しちまうなんざ、もったいねぇだろ」
 膝でぐりぐりとエレンの下腹部を圧迫すると、子犬のようなか細い鳴き声を塗れた唇から零れさせる。エレンはまったく可愛い。
「い、嫌です。あなたに俺のおしっこなんか、飲ませたくない」
 涙目で訴えるエレンに、飲尿の健康効果を語った方が良いだろうか。いや、そんなものは大した理由じゃない。そもそも飲尿健康法自体が眉唾ものなのだし。重要なのは、俺の、エレンの尿に対する、溢れんばかりのパッションなのだ。
「なぜだ? 俺が飲みたいのにどこにお前が拒否する理由がある? 汚いからか? てめえのションベンが? それこそどうして? 今更のはずだろう、エレン。俺がいったいお前の粗相を何回始末してやったと思っていやがるんだ。汚いなんて思っていたら、とっくにお前に愛想を尽かしてる。アナルセックスもしたな? ケツの穴だって舐めてやっただろう。俺はお前の緩い下半身から垂れ流させる生ぬるいションベンが大好きだぞ。いつだっててめえの濡れた足を綺麗に拭いてやっただろう。そのタオルに染みこんだションベンの匂いも好きだ。鼻にツンとくる匂いは、正直俺の下半身にも結構クるもんがある。今まで舐めてこなかったのが不思議なくらいだ。……いや、舐めたか? 舐めたな。だがもっと味わいたいんだよ、お前を。お前のおしっこを!」
「リヴァイさん、待って! 待って!!」
 エレンは顔を火照らせて、汗ばんでいた。全身から彼の緊張感が伺える。
「分かったから……。もう、出ちまうからっ、ジョッキ……!」
 切迫した声に促されるようにして、頭は興奮で茹りそうになりながらも手は淡々とエレンのズボンとパンツをずり下ろした。出てくるのは解放を求めて張りつめる彼の性器だ。ソッとジョッキに縁にエレンのちんこをあてがってやる。出しやすいように上下に柔く擦ってやると、高い声でエレンが啜り泣いた。
「うっ、リヴァイさんの馬鹿ぁ……!」
「あぁ、愛してる」
 泣きじゃくって手の甲で頬を押さえるエレンはとても可愛らしく、気持ちのままの言葉を伝えてやる。エレンはびくんびくんと汗のうっすらかいた太ももを小刻みに揺らした。そうして。じょわああぁぁ! 勢いよく流れ出る黄金の液体。リヴァイは彼の膀胱がソレを出し切るさまを、注意深く見守っていた。そのまなざしは恍惚だった。
「あぁあ!」
 溜めこんでいた尿を強い勢いで噴出させたからであろう。ジョッキに注がれたエレンのおしっこは泡立っていた。ほかほかとたてる湯気や指先に伝わるぬくもりが、これはビールではないのだと明確に表していたが、リヴァイは夏場にキンキンに冷えたビールを目の前にしたかのごとく、ごくりと唾を飲みこんだ。おぉ、こんなにたくさん。夢にまで見たエレンの黄金水が。これが神の、いやエレンの恵みか。泣き濡らした頬を上気させたままエレンが「本当に飲むんですか」と訊いてくる。リヴァイはエレンに目配せを送ると、目の前でたったいま放尿されたばかりのほやほやおしっこを一気飲みしていく。エレンの空いた口が塞がらない!
 ごっきゅごっきゅごっきゅ。これが大学サークルの飲み会かなにかなら、その飲みっぷりはもてはやされたであろう。しかし飲んでいるのはエレンのおしっこで。今日買ったばかりの特大ジョッキは、みるみるうちに空になった。

 飲むといっても、一気飲みだとは聞いてない。全部飲むなんて聞いてない。リヴァイの常軌を逸した変態性を前に、放尿を終えてすっきりした下腹部も相まってエレンは意識が遠のいていく。いまなら目を閉じて三秒で眠りにつくことができる。悪夢にうなされて飛び起きそうだが。
「悪くなかった」
 雄の顔をしてリヴァイは感想を告げた。ベッドの上や、あとはお風呂場やトイレの中(……)で何度も見たことのある表情だ。エレンはもう、彼の変態性を知っている。理解できたことなどついぞないが。このあとがいったいどういう過程を踏まえるのかは分からないが、経験則から覚悟を決めるのならいまだと理性が訴えていた。
「エレン」
「……はい」
 そうだ。リヴァイさんは変態なんだ。
「おかわりを頂いても?」
 エレンは確かに知っていたのに、まんまと失念していた。アルコールを摂取したあとは、トイレが近くなることを。リヴァイの変態性には妥協なんてないことを。脱水寸前になるまでエレンはリヴァイに搾り取られ、ペットボトルの水を口移しで飲まされたことまでなら辛うじて記憶に残っている。彼の口から移された水が、微かにアンモニアの香りがしたことも……。
「エレン、今年はいっしょに海へ行こうな」
 さざ波のような意識の中で、リヴァイが何かを言っていた。うみ……。きっとエレンの尿で濡れそぼった海水パンツをちゅうちゅう吸って、「しょっぱいな」と笑うんだろう。その男くさい顔が大好きなのだと思い出して、空っぽになったはずのエレンの膀胱は熱く疼いた。














2015/10/21
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